mitei 砂糖増し増し(キッチンカーパロ) | ナノ


▼ キッチンカーでバイトするパロ

「いらっしゃいませー」

「ツナサンドとー、それから」
「これって新商品ですか?」
「今日も美味しそう!コレくださーい!」

「ありがとうございます」

この時間はやっぱり忙しいなぁ。
お店的にはありがたいんだけど、もう少し人員を増やしてくれてもいいのではと思ってしまう。

まぁそうなると必然的に俺の勤務時間が減ってしまって、イコール貰える賃金も減ってしまうので悩ましいところだ。我ながら何て清々しい矛盾。

お客さんが途切れたタイミングでふうっと息を吐きながら辺りを見渡すと、淡い水色の空と緑、そして高いビル、ビル、ビル。

そう、ここはオフィス街の真ん中に位置する公園だ。

俺がバイトするキッチンカーは、昼頃になると特にちょっとした行列ができる人気店である。

色々な具材が詰まった見た目にも美味しそうなサンドイッチ、店長考案のカラフルなドリンク類に、そして可愛らしい外装。
極めつけは平日の決まった曜日にしか出店されないというレア感も、売り上げに貢献してるのだろうか。

店長の気分次第で稀に変わることはあるが、基本的にこの公園に来るのは火、水、金曜日だ。

土日はお休み。
なのでお客さんは大体近くで働いているオフィス街の人か、たまーにこの公園に散歩に来る人など。

出店する日は毎日来てくれる常連さんも多く、バイトである俺とも顔馴染みの人が増えた。

元々接客に向いているとは思わなかったけれど、美味しそうな匂いに、それに綻ぶお客さんの笑顔、温かいお言葉やちょっとした雑談など。俺はここでの仕事が結構気に入っている。

そんなある日のこと。

お昼の行列が過ぎ去った時間に、一人のおばさんがやって来た。手には多くの指輪、華やかな色のワンピース、緩やかにカーブした灰色の髪を背中に流していた。カウンター越しにも結構背が高く感じたのは、その人がハイヒールでも履いていたからだろうか。
そのマダムは、優雅な仕草でカフェオレだけを注文して去っていった。砂糖は増し増しで。

色つきサングラスの奥の瞳に一瞬何か分からない感覚を覚えたが特に気にすることもなく、その日の業務は終了。
あんなお金持ちそうな人も、まぁたまにではあるが来ることはあるから何もおかしいことはない。

おかしいことはないのだが…。何かが引っ掛かる。そうしてその「何か」は、その日は小さく家に帰ればほとんど消えかけていた。

次の出店日。
また長い行列が途切れた暫く後で、今度はスーツをビシッと決めた渋いおじさんが来た。
背が高く、スタイルもよく、磨き上げられた革靴がよく似合っている。
見た目通りの低い声でその人が注文したのは…カフェオレ。ホイップクリーム乗せという追加注文付き。珍しい。カフェオレに、ホイップクリーム…。そして「やっぱり」、砂糖増し増し。

え…。
「やっぱり」って何だ?
まぁいいや、働く人には糖分が多めに必要なのだろう。そうしてお会計で差し出されたカードを返そうと、紳士の顔を見上げたその時。

また。
忘れかけていた「何か」が俺の中に顔を出した。昨日のマダムと、この紳士が重なる。なぜ?どこも同じところなどないハズなのに、どうして。

「…店員さん?」

「え、あ、すみません!ありがとうございました!」

しどろもどろにそう言うと、スーツの紳士はふっと微笑って去っていった。格好良い。
とても格好良いが、「これ」は何だ?

瞳を覗いた時の違和感。何かが「違う」という脳内の声。何かって、何が?
違うって…一体何が違うんだろう。

次の出店日に来たのはチャラそうな学生っぽい男性。
その次に来たのは清楚な、しかしやはり背の高い美しい女性。
その次は…。

そんなことが何度か続いた。
お昼の行列が途切れる後、共通して見ているだけで胸焼けしそうなものを注文していく「彼ら」は一様に、俺の中に違和感を残していった。

そうしてある時にやってきたのは…帽子を目深に被った黒髪の青年。注文したのはやっぱり…あれ…ブラックコーヒー…?
しかも砂糖なし、なんて。

「ありがとう、じゃあ」

「あのっ!」

「ん?」

そこで俺は思わず声を掛けてしまった。

「今日はお砂糖は要らないんですか」と。

その青年が来たのは初めてのハズで、俺たちは初対面で、なのに、それなのに…どうしてまた、「今日も」来てくれたなんて思ってしまったのだろう。

俺の言葉を聞いたその人は空の真ん中のように濃く青い瞳を大きく見開いて、ぷっと吹き出して笑った。
やっぱり「違う」けれど、この姿が一番この人の「本当」に近いのだろうなと謎の安心感が駆け巡る。

そうしてひとしきり笑った後、青年は言った。

「やっぱりきみは気づいてたね。初対面の時からそうじゃないかとは思ってたけど、どうして分かったのかな」

「いや、何となく…?」

「んー、納得いかない…。けどまぁ、初めてだなぁ。また来るよ、凛陽くん」

「はい…」

ん…?あれ…?
俺、一度でも名前教えたことあったっけ?
ネームプレートだって名字だけなのに…。

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