「見て見て!今シオンくんいたよ!」
「本当好きだなぁ、確かに格好良いけどさ」
「でも隣にいる子いつも一緒だよねぇ?仲良いのかな」
「あぁ、あの二人は…」
高校時代から有名なあの二人は、大学に入ってからもいつ見かけても変わらない距離感だった。ということはきっと、あの噂も本当なのだろう。
「へぇ!あの二人って高校からの付き合いなんだー」
「でもさぁ…不思議なんだよなぁ」
「何が?」
「だってさぁ…。あんなんがシオンくんと釣り合うワケないって、普通ならちょっとでも揶揄されそうなもんなのにさ…高校の時から周りなーんにも言わなかったんだよ」
「そうなの?まぁ仲良さそうだからじゃない?」
「そうなのかなぁ…?まぁ仲は、ずっと良いみたいだけど…。あれ、でも確か、付き合いはじめの頃はシオンくんのファンが、」
そこまで話しかけて、影が差した。
見上げるとそこにはつい今しがたまで話題に出していた人物が立っており、思わず目を見張る。
「付き合いはじめの頃って、誰と誰の話ー?」
「え、あー、えぇっと…」
「な、生シオンくん…!近っ!」
一人は感動し、一人は困惑する。
話題が話題だったこともあるが、何故だか雰囲気に気圧されて彼の顔を見上げられない。
「ま、いいや。あんまし大声でその話しないでねー」
「は、はい…」
「あぁ、それと」
「はいっ!」
「あんなん、ってさぁ…。一応僕の恋人に失礼じゃん?二度とあいつを見るなよ」
「ひぃっ」
「お返事は?」
「わ、かりました…!」
「おけーぃ!じゃね!よろしくぅー」
ひらひらと手を振り、そのまま振り返りもせずに去っていく後ろ姿はいつもなら同性でも異性でも関係なくぼうっと見惚れてしまうもの。
なのに今は…本能的に理由を分かってしまったからか、それが「逆らってはいけないモノ」に思えたのだった。
「待って…あの噂流したのって…」
「ん?何の話?」
「いや、なんでもない…」
「どしたん。急に消えるからびっくりした」
「んー?ちょっと煩いハエがいたぁ」
「え、屋内よな?ちゃんと逃がしてあげた?」
「うん。………今回はね」
今日は機嫌が良いから、ね。
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