週に一回は。
その言葉は嘘のようだが、嘘ではなかった。
けれど「告白」という呼び出しの場で無責任に放たれる言葉は様々で、嘘偽りのない愛も混じっていれば、手の届かないブランド物への執着心のようなものもあって。
少なくとも彼にとって、そのどれも良い音を心に響かせるものではなかった。
「ね?いーじゃん、真剣に考えてよ」
「無理」
「それって例の恋人がいるから?別に本気じゃないんでしょ?」
「………」
「とりあえずでもいいからさぁ、ね?どう?」
「………はぁ」
「えー、まさか本命?シオンくんに似合わなくない?ほら、そんな地味なコなんて放っといてさぁ、」
自分のことだけならばまだしも。
無視を決め込んでいた彼の理性はそこで切れた。
「チッ」と漏れた舌打ちは思いの外冷たい廊下に響いて、相手の身体を震わせるには十分な迫力だったようだ。
「似合う似合わないって何で決まんの?なに?アンタ神様か何かなワケ?無理つってんだろ。初対面でクソうぜーんだけど」
「消えろ」と唇の形だけで呟いて、その場を後にした。
後に残った奴については、すぐさま記憶から消すようにしよう。
「シーオーンーくん。今日はいつにもまして不機嫌だなぁ」
「…べつに」
珍しく視線を下に向けたままの彼は、今日は朝からこんな感じだ。表情筋は定休日だろうか。
たまーに、ほんのたまーにこんなことがあるけれど、何か嫌なことがあったんだろうか。
…あったんだろうなぁ。理由もなくこんなんなる訳ないじゃんな。
「飴玉あげる。チョコメロンパン味。クソまじぃの」
「…いらね。てかどこで買ったのそんなん」
「耳鼻科で貰った」
「え、耳悪かったの?」
「いんや、至って正常だった」
「何だよかった…」
耳鼻科に行った話をしたら、漸く彼がパッと顔を上げた。瞳には本当に心配したような色が浮かんでいて、軽く感動すら覚えてしまう。
「心配してくれたん?まさかシオンが人の心配するなんて…!ママン嬉しい!」
「スミレに育てられた覚えは…あるわぁ」
「俺はないよ?育てた覚え」
「発言には責任を持つように」
ちょっとずつ元気を取り戻し始めた彼に内心胸を撫で下ろしながら、また金色から覗くピアスを数えてみる。貫通してるやつとかあんだけど…。やっぱ痛いのかな…。
「なぁ、手出して」
「ん?ほい…あ」
「チョロすぎん?流石に心配んなるわ」
「握った本人が言うセリフ?それ」
またこないだみたいに繋がれた手は、やっぱり離される気配がない。
まぁいいや。今日は特に元気なかったみたいだし、ちょっとくらいはこいつの好きにさせてやろう。俺って優しい。超優しい。多分。
「なぁ、スミレ」
「んー?」
「今日家行ってい?」
「別に構わんけど…いつも来てんじゃん」
「泊まらせて」
「飲みたい気分?」
「ちょーっとね…」
あらま、いつもなら進んでお酒飲まない奴が珍しいこと。やっぱり結構落ち込んでるのかもしれないなぁ。
「ところでシオンくんやい」
「もっとせんせーっぽくぅ」
「次、シオンくん読んで」
「さーせん、聞いてませんでしたぁ」
「言ってないもんな、そもそも何の授業だよ」
じゃなくてだな。
「なぁ、それ楽し?」
「んー、多分…?」
「分かんないのかよ、なら離しなさい」
「やぁだ」
にぎにぎって効果音再び。
疲れてると、スキンシップしたくなるのだろうか。
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