ね、どうなんだろうね。
ずぅっとこいつと一緒に居るから、自然とそんな風に思われちゃったのかもねー。
って、そんな訳あるかーい。
小中高、更には大学と、順調に同じところに通っている俺たち。家も近いしまぁ仲も悪くない。世間一般的には幼馴染みと言っても差し支えないだろう。
にしても小中ならまだ分かるが、高校、更には大学まで被るなんて本当奇跡なんじゃないかと思うよ。高校でだって、学力で俺は平均点を底上げもせず下げもしないザ・平均、普通の座に鎮座し続けていた訳だが、同じ学校で教わってきた筈の幼馴染みくんは毎回上位十位以内をキープしていた。
「どんな勉強してんの」って訊いたら「授業受けてるだけ」って返ってきた時は流石に嘘だろと思ったが、どうやら嘘ではなかったらしい。天は気に入ったやつにはいくらでも与えるのか、なんて一丁前に羨んだもんだ。
なのに大学まで同じなんだもんなぁ。
不思議すぎる。こやつの学力をもってすればもっと他にも選択肢があっただろうに、何でここまで被るかなぁ。俺的世界不思議ミステリーの一つだ。しょうもねぇミステリーだな。
そんなミステリーの他にもう一つ。
こっちも割としょうもねぇミステリーなのだが。
いつしかこの出来すぎる幼馴染みシオンくんと平々凡々の頂点とも言える俺、スミレくんが付き合っているという噂が広まり始めた。
平々凡々の頂点って何。それはまぁいいとして。
幼馴染みだからな、帰る家も近いしお互い帰宅部だったし、クラスも一緒になることが多かったし…。一緒にいすぎたんだと思う。
思うけど、だからって何でもかんでも色恋沙汰に変換するのはどうかとも思うよ。
思春期ゆえなのかも知れないと思って、今までスルーしてきたが…。
「な、どう思う?」
「シリマセン」
「Can you hear me?」
「無駄に発音が良いな…」
にやにや口角を上げる唇をむにっと引っ張ってやりたいが、そんなことをすれば倍返し、いや三倍返しに遭うことは明らかなのでここはむむっと我慢だ。
ちくしょう、何でそんなに楽しそうなんだ。
「というかお前、噂とか気にするタイプだったっけ」
「基本しない。しかしこれは別」
「まぁまぁ、人の噂も何とかかんとかって言いますし」
「僕の計算ではあの噂がたち始めてから1278日は経ってるんだけどね、」
「え、待って待って」
ちょっと待って。
今ちょっと聞き間違えたのかもしれない。
俺の耳、大丈夫かな?
「んー?」
「んー?じゃない!小首傾げてもダメ!数えてんの…?」
「もちろん」
「うわぁ…」
大丈夫じゃなかったわ。
何て爽やかで美しい笑顔なんでしょう。
いや違う。そうじゃない。
引いた。これはダメでしょう。いくらお顔が良くったってそんなこと関係なく、これは誰だって引くでしょう。
俺は引いた。恐らくこいつとの付き合い史上一番のドン引き案件だった。多分。
「あからさまにドン引きされたって覚えてるもんは覚えてるんだからしょうがねーでしょうよ」
「覚えてるってことがドン引き案件なんですよ」
「まぁとにかくだね、」
「続けるのか」
「結論として、少なくともあの噂はまだ生きてる。有効っぽい。にも関わらず、だ。今でもまだ週に一回は告白されてる」
「ヘー、ソーナンダー」
多いね。月に四人じゃん。一年で何人だよ。
単純計算でも結構な人数だよ。
「もっと興味持って。当事者ですよアナタ」
「俺は告られてないもん」
「それは…今度プリン奢るよ」
「あからさまに同情すんな腹立つ!お前なんかこうだ!いや足長っ」
「服が汚れるのでやめてください。オイ、脛を蹴るな、弁慶さんだって泣くところだぞコラ」
「今度から足長男爵って呼、あだっ」
「お前のそのネーミングセンスなんなの」
「いだぁい…」
結構な威力でデコピンされた。
そっちこそ足蹴られても怒んないのに、変なあだ名で呼んだら怒るのなんなの。
昔っからこいつの沸点が分からないんだよなぁ。
「スミレちゃんやい」
「ちゃん付けするな」
「というワケでー、折角まだあの噂があるんだからさ。ホラ、もっとこうね、活用?せねばならんと思うのだよ」
「もう忘れてもいいと思うよ」
「なんでー?もったいないっしょ」
「そんなところでもったいない精神発揮しなくても」
「ばかっ!分からず屋!そんな子に育てた覚えはないわよ」
「お前に育てられた覚えもないわよ」
「とーにーかーくー、協力したまえ」
「ものを頼む態度って知ってる?」
「協力したまえ」
あー、もう何言っても無駄だコレ。
どうせ口喧嘩でも勝ったことないし、いい様に言いくるめられるんだろうなぁ。
めんどいいい…。けど、きらきら輝いてこちらを見てくる瞳が今更俺を逃がしてくれる訳もない…。世知辛い。
「………協力って、具体的になにすんの」
「うはっ、すっげぇー嫌そう!」
「ならやめなよ男子ぃー」
「そうだなぁ」
「ガン無視かい」
「もっとこう、ラブラブ感が必要だと思うんよ」
「何か…古い、ラブラ…何て?ラブラドライト?」
「あーね、実践しよっかぁ」
スルーしよったコイツ。
ちなみにラブラドライトってあれね、石の名前ね。青とか緑とか混ざっててすごく綺麗だから、あとで画像検索してくれ。
誰に言ってんだろうな俺。
や、現実逃避かな。
ラブラドライトの綺麗な色合いを頭に浮かべながらも、手の平の感覚が現実に引き戻してくる。するりと自然に組まれ、当てられるやや冷たい温度。それが指と指の間に入り込んできゅっと握り締めてくるから、まぁ…端から見れば恋人繋ぎしてるみたいになってしまった。
「…何食ったらこんな指長くなるんだ?いや、身長か」
「そういうお前は………普通だなぁ」
「さては感想思いつかなかったな?」
「キレイなお手々デスネー」
「思ってないっしょ」
にぎにぎって効果音はここで使うんだろうな。
何の感想も浮かばない俺の手なんて握って何が楽しいんだろう。やはり意味が分からない。
「帰りも繋いで帰ろーねぇ」
「やだ」
「繋いで帰ろーね?」
「チッ」
「舌打ちするような子に育てた覚えは」
「ないですよねーすんませんねどうも」
「不機嫌になっちゃった?」
「なってないし。んなことより、お前さぁ…こんなことしてたら勘違いされんじゃないの」
「何を今更?ラブラブ作戦つったじゃん」
「古いネーミングだなぁ…でもさ、ホントに」
「なに?」
じぃっと見つめられて、その先が言えなくなってしまった。なにって問われているのに、言うことは許さないみたいな…変な圧を感じるのは多分俺がチキンだから。
あと、机の上で握られてる手の力が強くなった…から。多分。
「………なぁシオンちゃんやい」
「ちゃん付けやめてよぉ」
「いい加減、いや…何でもない」
「………ほおん」
「なに」
「スミレちゃんは…今日も瞳が綺麗ですね」
「心の表れかな」
「ちげーと思う」
まぁそうでしょうな。
だって分かってても言えないんだもん。
こんなことして、勘違いされたら困るんじゃないのって。
たったひとり、お前の本命の人にさ。
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