mitei 笑ってくれたら | ナノ


▼ 2

「らっしゃいませー…」

「あ」

「あ」

マジか。

大学終わり。
友人らと目についた喫茶店に入るとそこには…青山がいた。

その姿を見て思わず間抜けな声が漏れるが、青山の方も少しだけ、ほんの少しだけ驚いたような顔をしていた。レアな表情だ…。じゃなくて。

まぁバイト掛け持ちしてるって聞いたことあるし、ここ大学からそう遠いわけでもないし、別にそんなに驚くことじゃない。

うん、そんなに驚くことじゃない…のだが。
こいつと接客業っていうのが上手く結びつかなくて、何というか…ちょっと意外に思ってしまった。

普段から愛想とは無縁なんじゃないかと思える青山が、接客業?いやそりゃあ、ギャルソン姿似合ってるけど。めちゃめちゃ様になってるけどさ…。

接客…こいつが…?
失礼なのは百も承知だが、悪い。
全然想像がつかない…。

「お、青山くんじゃん?なるほどだからかぁー!」

「店内女の子すげーいるなぁと思ってたんだよなぁ!そりゃこうなるわ。な、中瀬!」

「お、おう…」

友人にポンッと肩を叩かれて我に返る。
気のせいか青山の眉間に皺が寄った気がしたが、本当にそんなんで接客業をして大丈夫なのだろうか。というかそんなに俺が来たの嫌だったのかな…心なしが雰囲気がめっちゃ怒ってる。気がする…。

席について、メニューを見る…振りをして、店内を見渡す。
入った時から確かにお客さん多いなぁと思っていたが、そのほとんどが同じ方向を向いては同じような表情を浮かべていた。

青山は俺がいるところからは少し遠いテーブルで、お客さんと喋ってる。あいつが近づくだけでその席の彼女らは色めき立ち、注文そっちのけで青山を質問攻めにしているようだった。

あいつの表情は…背中を向いててここからじゃあ確認できなかったけれど。
本当に大丈夫なのかなぁ、色々と。

なんてきっとお節介過ぎる心配をしていると、青山は今度は別のテーブルに向かう。
もう彼の一挙手一投足を見逃すまいと店中の視線が同じ方向を向いているから、目を逸らしていても奴の居場所が分かってしまう。
いや本当にすごく見られてるけど…大丈夫なのかな、零。嫌な思いとか、してないかな…。

俺が入ってきた時の彼の反応を思い出し、やっぱりじろじろ見られるのは嫌だろうなと思って、俺は友人たちとの会話に集中することにした。

やがて「きゃあぁっ!」と店内の所々で小さな悲鳴のような歓声が起こる。

何だろう?ここってコンサート会場だっけ?
いや、ただの喫茶店だったはずだ。

そろり、と下げていた視線を恐る恐る上げると、俺は固まった。

………え。

「へー!青山クンが笑ってんの初めて見たかも!愛想笑いだろうけどー」

「マジかぁ、めっちゃレアじゃね?ちょっとぎこちねー感じするけど、破壊力やっば」

「すげぇ反応…。なぁ中瀬は?よくあいつといるけど、笑顔とか見たことあんのか?」

「う、うん…。まぁ一応は…」

なくはない、けど。いや、何回かあるけど。
でもなんか、変な感じがする。
俺の知ってるカオを、他の人も知ったのか。みたいな。

でもあれはバイトだし、接客だし、そういうものだし…。分かってる。分かってるんだけど。
なんでこんなにもやもやしちゃうんだろう。

青山は…零はただシゴトとして微笑んでるだけなのに。

なのに「俺にだけじゃないんだ」、なんて。
どうしようもなく我が儘な独り言を、心の奥底の自分がポツリと呟いた。

馬鹿だ。
なんで、友達にこんなこと思っちゃうんだ。

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