mitei 夜明けから | ナノ


▼ 3_やがて日常になる朝(あした)

なんか、すごく幸せな夢をみた。

彼と一緒に帰って、ゲームしてご飯食べて、同じベッドで一緒に眠った。そんな夢。

今もまだ夢なのかな。
腕の中には焦がれた黒髪があって、呼吸する度に揺れる愛しい肩がある。

………。
そっか、まだ夢か。

やがて黒髪がもぞもぞと動いて、腕の中から顔を出した。見慣れた顔。大好きな顔。
俺のタカラバコの中に何枚もある、俺の一番見ていたい顔。

その顔が寝癖をつけたまま、じいっと俺を見てる。あまりにじいっと見ているもんだから手が勝手に動いて、その頬に滑り込んだ。

ピクリと揺れる、その体温。

親指で肌の感触を確かめる。
やけにリアルな夢だなぁ。

唇が、何か動いてる。声も聞こえる、気がする。

何か言ってるのか。なんて?
聞きたい。俺はふっとその唇に近づいた。
その声をよく聞こうと思ったから…なのかなぁ。

ふにっと柔らかい。
あぁ知ってる、この感触も。本当によくできた夢だ。

何回かその唇を食んで舐めて、緩く開いたすき間に舌を差し込んだ。温度も感触も、やっぱりやけにリアルだ。

「ん…」

「ん、んぅ…は…」

合間に漏れる熱い吐息すら生々しい。

まるでホンモノみたい。
ホンモノの彼がそこにいるみたい。

と思っていたら何だか俺の肩を掴む手に力が込められた。ちょっと痛い。

…痛い?痛い、のか。

不思議に思って顔を離すと、真っ赤に染まった澤くんの顔があった。唇から伸びた糸がもったいなくて、もう一度だけキスをする。

今度こそその真っ赤な顔を覗き込むと、涙目になっている。ヤバい。すきだ。

もう一回…と思って顔を近づけたら、額に鋭い痛みが走った。いてっ。ん?なんか…やっぱり痛い。ということは。

「こ、この変態っ!おま、朝っぱらから…!」

「………いたた」

「お前が悪い」

「…さわくん?」

「んだよ」

「んっふふふ、おはよう」

「うっ…!………はよ」

ちょっと息が切れてる。たぶん俺のせい。
デコピンした指、痛くないかな。

変態っていつもみたいに罵られても、抱き寄せてるまんまの腕は離せそうになかった。

あぁ、夢じゃない。夢じゃなかった。
ズボンに手を突っ込まなくて良かった。あっぶね。

しかし何て最高の朝だろう。

起きたら彼が居て、一番にその声で「おはよう」って言ってくれて。いやまぁ、第一声は「この変態」だったけど。

デコピンした癖に、抱き締めるのには抵抗してこなかった。ホント馬鹿。相変わらず馬鹿なのに、そこがまたかわいくて堪んない。

おれにだけにしてね。
おれ以外に見せないでね。

ぎゅってしたら、今度はぎゅってして…くれなかった。代わりに大きな溜め息を吐かれる。

「お前は寝てたらキレイなのに…」

「キレイだった?」

「起きたら変態だったから台無し」

「ふっふふふ、そう?」

「…へんたい、ばか」

「ばか、ね。ふふふっ」

「………今日は、ちゃんと眠れた?」

「…うん。うん、だいじょうぶ」

やっぱり起きてもきみはきみなんだなぁ。
こんなことされても俺のこと心配してくれる。

まぁ正直、最初の方はこんな状況で寝られるかって思ってたけど。
まさかこんなにも安眠できるとは自分でもびっくりだよ。

寝る前にもきみがいて、起きてもまたきみがいて。

そんな生活が出来ればどれだけ幸せだろう。
ダメだ、少し与えられただけで。
俺って奴は…もっともっとと望んでしまう。

もっと欲しい。
もっとちょうだい。
ぜんぶちょうだい。

重い感情を乗せてもう一回ぎゅってしたら、今度こそぎゅってしてくれた。やっぱり馬鹿じゃん。

して欲しいとは思ってたけど、この子どこまでも馬鹿だわ。どうしましょう。

「何か今馬鹿にされた気がした」

「やだ、分かっちゃった?」

「殴る」

「お好きにどーぞ、ほら、どこでも」

「ひぇっ…何か逆にこわ」

「さわくんになら、いいのになぁ」

「やっぱり変態じゃん」

「そ。だから、毎晩一緒に寝てくれる?」

「やだ」

「超即答。ウケるー」

「お前と寝たら何されるか分かんないって学んだ」

「本当かなぁ。澤くんは、ちゃんと眠れた?」

「うん。………うん」

え、なにその間。ちょっと気になるんですが。

「澤くん?」

「なに。というかそろそろ離して」

「やだ。くまさんできてないかチェックしよ」

「できてないよ、寝れたもん」

「うん、ホントだ。なら良かった」

良かった。俺のせいで澤くんを寝不足にさせるとか許せないからなぁ。
でも澤くんも俺みたいに、ちょっとは意識してくれてたとかだったらいいのに…と、やっぱり思わなくもない。

くまさんはできてなかったから、真相は本人のみぞ知るってことか。

「なぁ藤倉」

「なぁんでしょ」

「いい加減離して」

「やだ」

「駄々っ子か」

「うん」

あぁ、最高の朝だ。
というか、ほぼお昼になっていた休日の午前。
これが日常になればいいのにと切に願う。

それにしても、澤くんは一体いつから起きてたんだろう。
聞いてみても「大体お前と一緒」って答えられたけど、あれは本当かなぁ。

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