そもそも学生一人暮らしの部屋に、ベッド置いて布団敷くスペースなんて中々無いんじゃないかなぁ。
それに例え布団を敷いても、こいつはちっとも気にしないでやっぱりベッドを使うんだろう。
そんなことを薄ぼんやりと考えていると、少し責めるような視線が上から下りてきた。
「何でおれだけに相談しなかったの」
「だっ…て、怒ると、思って」
「分かってんじゃん?ホント、お前って、馬鹿」
「うっさ、いぃぃっ!いぁ、ちょっ、」
「やっぱり嬉しかったんじゃねぇの?なぁ?あんな熱烈なラブレター、もらって、さっ!」
「そ、んなわけ、やぁっ!んっ、ふぅっ」
「全く…せっかくお前に気づかれないようにしてたのに、あんな手紙書きやがって…!ざけんなっ、くそっ」
「愚痴りながら、動くな、ばかぁっ!!」
安物のベッドがギシギシ音を上げて、そのリズムに揺られながら俺もあられもない声を上げる。
見慣れた切れ長の瞳には普段優しい色なんて微塵もないのに、俺はそれを見るといつも安心してしまう。
瞬きして、滲む視界が開けるとその瞳と視線が合わさった。捕らえられた、って言い方の方が正しい気がする。だってこんなの、逃げられるわけない。
普段は鋭いそれが三日月のように歪む。
俺だけを映すそれは普段の切れ味なんてどこへやら、今は違う威力で俺を捕まえて離さない。
ずるいよな、ホントずるいよ。
見た目とのギャップのすごさランキング、サンが一位だって思ってたけどこいつも中々いい勝負かもしんない。
「あ、おれ以外のやつのこと考えた、今」
「えっ、あ、やぁっ!ちがっ、あぁっ!」
油断していると更に深く突き上げられて、声にもならない声が溢れた。
喧嘩で鍛えられたのであろうがっしりした身体が、普段は着痩せする腕が俺を抱き締める。
逃げないのに、逃げられないようにする。
「やっ、イチ、あぅっ」
「シィのことなんて、おれだけがみてればいいんだよ」
もう何度目か分からない快楽に意識を飛ばす。これじゃあ明日も身体中痛い…だろうなぁ…。
「おはよー…」
「おはようシィ。元気ないな、大丈夫か?」
「おっはーシィちゃん!とイチ!」
「おれはついでか」
「シィちゃんに無理させる奴はついででじゅーぶん!」
「るせぇわ」
「シィ、本当に大丈夫か?授業休むか?」
「いや、そこまでじゃないから。ありがとう」
いつも通りの面々で、講堂に向かう。
皆ほとんど同じ授業を取っているから向かう場所も休み時間も大体一緒だ。
それにしても、なんだが。
ラブレター事件の翌日からというもの、ゴトウくんは目が合うとものすごい微妙な面持ちで俺を見ては避けるようになったんだけど…。
彼は一体何を吹き込まれたんだろう。
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