言いたいことはたくさんあって、それらは形を持たなくて。
言葉になったのはほんの少しだけだった。
難しいことは分からないんだ。
好きだとか嫌いとか、そういう単純なモノじゃない。
おれの抱えるコレが、恋とか親愛とか家族愛とか、性愛とか。
そのどれに分類されるのか考えたことは何度もあった。
何度もあって、本当に何度も何度も考えて、それでも最適解は見つからなくて。
触れたくて繋がりたいなら恋か、或いは性愛なんじゃないかって思春期じゃなくてもみんなそう言うでしょ。
「みんな」が誰かは分からないのに、「みんな」がそう言うんだよ。
他人の言う事なんて甚だどうでもいいけれど、それがやけに耳について鬱陶しくも離れなかった。
だけど違うんだよ。違わないけれど、でも違うんだ。
そんな一言で括れるようなモノじゃないんだ。
こうこうこんな気持ちを抱えています、こういった時にこういう気分になるんですって言ったら、じゃあそれは「××」ですねって。
数学みたいに、解くための公式があって、答えが絶対に教科書に載っているようなモノのように言われたとしても。
違うんだ、違わなくても、そうじゃないんだよ。
このもやもやしたモノはおれにしか分からなくて、おれにしか感じられなくて、なのにおれにはどうしようもないものなのに。
それに名前を付けられるのも、おれだけなんだ。
愛とか、同情とか、好きだとか嫌いとか。愛おしいとか憎いとか、触れたいだとか離してやるものかなんて執着まで。
色んなものが、本当に色んなものが綯い交ぜになって小さな欠片を形成した。
大きくなりすぎて心を食い破らないよう見張っていたのに、それはとっくの昔に心を覆い尽くしていたんだ。
おれに心というものがあるなんて、多分きみに逢わなければ気づかなかっただろうな。
それくらい、きみしかいない。
おれの世界には、その青しかない。
それなのに、その一色だけでこんなにも鮮やかに全てを彩るのだからきみの前世はきっと魔法使いだ。
こんな台詞を真顔で言ってみようか。
そしたらきっと一瞬難しいカオをして、「映画の観過ぎだよ」なんてはぐらかされるだろうか。
今世でも多分、似たようなものだよなぁ。
おれはさ、本当は口下手で、心から思っていることを話すのが得意じゃなくて、表情も乏しいから何考えてるのか分かり辛いと思うんだけど。
でもね、単純なんだ。
世界は紺一色で、なのにこんなにも鮮やかだ。
きみのその魔法みたいな瞳が映す世界はどう視えるの。おれは、どう映ってるの。
きれいではないんだろうなぁ。格好良く映っていたらいいなぁと思うけれど、それも望み薄だな。
でもちゃんと、映ってるなら。おれだけにピントを合わせて見てくれているといいな。
心の中に渦巻くこいつを、言葉で伝えられたら良かった。
だけど、言葉だけで伝えられなくて良かった。
どの公式にも当て嵌められないこの厄介な問題を、ややこしく絡まった糸みたいな感情を解くのにはまだまだ時間がかかるだろう。
解けたとして、消える訳でもない。消せはしないし、消しもしない。
隣で揺らぐ黒髪を眺めながら、おれは今日も拗らせた想いを大切に抱えてる。
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