mitei 秘密のひととき | ナノ


▼ 11

「で?」

「でー?」

もうすっかり見慣れた顔をじとりと睨み付けるも、そいつは頬杖をついて俺の言葉をそっくり投げ返してくるばかりだ。
リピートアフターミーするな!アンタはオウムか!

「超能力者兼そう遠くない未来のきみの恋人ですけど」

「うっぐぐ…そういうことじゃなくて!もう!何でアンタがここに居るの!」

「何でって…蓮く…ヤマシタくんのボディーガード的な?」

しれっと言いやがったけど、俺たちが居るのは喫茶店の上の方ではなく、お悩み相談室の地下の方だ。

あの日のやり取りから見るに店長とこの人は仲が悪いのだろう。それなのにそんな簡単に店長がこの人のこの部屋への立ち入りを許したとは思えない。

何か…色々察した。

「だから店長めちゃくちゃ機嫌悪そうだったのか…」

「脅してないよ?ちょっとお願いされただけ」

「したんじゃなくて?」

「提案はした」

「提案…」

この人が言う単語が全部素直に受け止められないのは気のせいか。いやに含みがあるんだよなぁ。

「なぁに?じっと見て。まだ誰も来なそうだし、いちゃいちゃする?」

「しません」

一人で座ってるとそんなこともなかったけど、こうして隣にこの人が居るとちょっと狭く感じるな…。それもこれもこの人の足が無駄に長いせいだろうか。
ってか一人じゃないし、ゲームできないじゃん。

「すればいーじゃん」

「やだよ。てかさぁ、超能力で欲しいカード引き当てたりとかも出来んの?」

「超能力じゃあ無理かなぁー。システムにクラッキングすれば何とか、」

「やんなくていいからね?でもそっか、何でも出来る訳じゃあないんだなぁ」

「そうだよぉ。出来ないこともたくさんある」

「例えば?」

「好きな子を素直にさせることとか、ね」

ぐっと近寄った体温が、触れるか触れないかくらいの距離で止まる。
薄暗い照明でもこの人の髪はやっぱり眩しくて、こちらを試すように光る翠も鮮やかに煌めいていた。

ちくしょう、カッコいい…。
性格はこんななのに。

「…やろうと思えば、出来るくせに」

「能力的にはね。でも気持ち的には、出来ないことも多いんだよ。きみが素直になれば解決するのになぁ!それも楽しいけど!」

「地下室で大声を出さない」

「スイマセン」

チリンと音が鳴る。お客さんの合図だ。

「雪花さん、ちゃんと黙っててよ」

「はぁい」

入ってきた。今度はどんな人なんだろう。
どんな秘密が明かされるのだろう。

ところが椅子に座ると同時に話し始めたその人の声が、俺の疑問を一瞬で別のものへとすり替えてしまった。

「私、飲食店をやってるんですけど」

ん?んんん?
この声は流石に聞き覚えが…。

「何してんの。シゴトしろよクソババア」

「ちょっ、雪花さん!!」

「私の店にかわいーい店員さんがいるんだけどねぇ」

「それは超同意」

えっ、何?続けるの店長?
何しれっと返事してんだこの人も!

「最近その店員ちゃんに、ものすごーく面倒な奴が言い寄ってるワケ。どうすればいいかしら」

「あー、厄介だよねぇそういうの。ちなみに誰?消してくるわ」

「自覚しろ。おめぇだよクソガキ」

「あ"?」

「ちょっ、二人とも落ち着いて!!」

もう衝立とか必要無いじゃん!
何なのもう、店長も店長で何でわざわざこんなところまで来たの!

「シゴトほっぽりだして文句言いに来たんですかーって、蓮くんが」

「そんな風に思ってませんけど?!」

「ごめんねぇ蓮くん。私じゃこの変態を止められなくって…。変態だしウザったいし態度も悪いし良いのは見た目だけだけど、何かあったら盾くらいにはなるでしょ?それにどうしてもって五月蝿くってねぇ」

「ボディーガードだっつの。というか、どうしてもって泣きついてきたのそっちだろ」

「分かったから二人とも止めてください…」

つまりは心配で見に来たって訳か…。
何だこの茶番。というか二人ともめっちゃ柄悪いな。こっちが本性なのかな。

「蓮くんに見せるのは全部本当のおれだよ」

「そうすか」

「そろそろ本当のお客さんが来るわね。私は上に戻るけど、その変態に何かされたらすぐに言いなさいね。…蓮くんをよろしく」

「言われるまでもねぇから早く戻れ、香水キツキツクソババア」

「後で覚えとけよド変態クソガキ」

「めっちゃ口悪いじゃん二人とも…」

雪花さんに至っては衝立越しに中指立ててる…。本当、初対面の物腰柔らかな印象はどこ行っちゃったんだ。

「やっぱ最初のおれのがタイプ?」

「別にそういう訳じゃありませんけど」

そろそろ本当にお悩みを抱えたお客さんがやってくる。

ちなみに、俺の他に雪花さんもお客さんの秘密を聞くことになってしまう件についてだが…。どのみちこの人には俺の考えは筒抜けなので、ここで聞こうがどうせ一緒だろうというのが店長の見解だそうだ。
まぁ確かにね。

というか。

「さりげなく手を握るな雪花さん」

「や、隣にあったからつい」

「つい、じゃねーわ」

「蓮くんも柄悪くなっちゃった」

「お客さん来るから、ちょっと静かに」

「キス」

「しない」

「ちぇー」

「………まだ」

「ふふっ、うん」

チリンと再び音が鳴る。
さぁ、今日は、今度こそはどんな秘密がやってくるのだろう。

『喫茶Cleome』。

当店は癒しの時間をご提供するとともに、悩めるあなたを本日もお待ちしております。

「…今じゃないって言ったのに」

「ほらほら、お客さん来ますよー」

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