「やっほぃ蓮くん」
「うわ出たっ!またアンタか」
「イェス!あの時助けていただいた超能力者ですぅ」
「開き直ったからってそうやって窓から来んのやめてくれませんっ?!」
俺を助けてくれた雪花さんは、あれから事あるごとに…いや、何もなくても突然窓から現れるようになった。
もちろん俺の部屋の窓のことである。
ちなみに俺の部屋はマンションの最上階の五階だ。もう何も突っ込むまい。
常識なんてものはまるで無視して窓から入ってくる癖に、部屋に踏み入れる前にきちんと靴を脱いで、わざわざ玄関まで置きに行く雪花さん。
ぶっ飛んでるのか律儀なのかやっぱり分からない人だなぁと毎回思うし、玄関から来ればいいのにとも何回も思ってる。
まぁ、別にどっちでもいいけどさ。
「ねぇー?そろそろあんな危ないシゴト辞めない?おれが養ったげるからさぁ」
「なぁそれ俺のポテチ。ってか、俺はそんなこと望んでないって、アンタなら分かるでしょ」
「もちろん。おれもきみに救われたんだ。きみはおれ以外の人にもきっと必要なんだよ」
「…そっか」
あれから店長も考えたらしく、『地下室』は当初の予定通り小ぢんまりとしたお悩み相談室に収まったのだった。
訪れるのは世間にとっては本当に些細な…それでも当人達にとっては人生を左右するんじゃないかってくらいのお悩みを抱えた人ばかり。
客足の多さに浮かれて、セキュリティーを疎かにして悪かった。
俺に危ない目に遭って欲しい訳では決してなかったと、あの後店長は涙ながらに謝罪してくれた。
「それだけで許すなんて蓮くんもお人好し通り越して頭おかしんじゃないの」
「アンタにだけは言われたくないよ」
色んな人の役に立ってる。
このおかしな人も俺に救われたっていうんだから、本当におかしなことだ。
だけど…うん。他にも困ってる人がいるなら、その人の力になれればいいなぁ。
少しでもいいんだ。
ほんのちょっとでも、俺に何かの手伝いが出来れば。
「それは応援するけどさぁ…。そういうとこも好きだよ?………だけど複雑なんだよなぁ、変な勘違いする奴出てきたらすげーやだし。やっぱおれ以外要らなくない?ねぇ!今からでも」
「うっさい!アンタ本当初対面から印象変わり過ぎだろ!!」
「そうかなあ…怒っちゃやだよぅ蓮くん」
「アンタが怒らせるようなこと言うからでしょ…全く。ちゃんと机で食べなさいってば」
本当に、礼儀正しいんだか大雑把なんだか。
「アンタじゃないです、せつかですぅ」
「雪花さんね、ハイハイ」
「ねえ」
「何すか。うわ近っ」
「出来るだけきみの意思を尊重したいけど…我慢できなくなったら、ごめんね?」
「店でも壊す気ですか」
「それもやろうと思えば出来るけど…色々面倒だからそんなことしないよ」
「…出来るのか」
この人の数々の所業を思い出して少しゾッとした。そりゃまぁ、やろうと思えば出来るんだろうな。物を動かすことも心を読むことも、記憶をアレすることも出来ちゃうんだから。
「出来ちゃうけどさぁ…。きみが大切にしてるモノ、壊したりして嫌われたくない」
「そうですか」
「うん。だからおれも、そろそろきみの"大切"にして欲しいなぁーなんて」
指にポテチつけて何言ってんだこの人は。
大体そんなこと、もうとっくに…。
あ、いけない。
「ホントにっ?!」
「あー!!だからもう!勝手に読まないでください!!」
「聴こえたんだよ、不可抗力だ」
本当に、この人の前では迂闊なことは考えられない。いや、というかもう思っちゃうことは止められないしそれは全部俺の本音であって…。
つまりこの人には俺の本心も何もかも隠せないってことになる訳で…。
「…あー、恥っっっず」
「取り扱い注意でっす。大事にしてね」
ふわりとまた、あの香りがする。
プラチナブロンドの髪は柔らかく頬を擽って、全身がもう何度も感じた体温に包み込まれた。
むかつくけど。
ほうらね、もう、手遅れだよ。
そんな声が聴こえる。
超能力者だとか魔法使いだとか、一般人だとか。そういうこと全部抜きにしても俺は一生この人に敵う気がしないんだ。
「おれも蓮くんには一生敵う気がしない」
「だからモノローグにも返事するなってば」
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