mitei 秘密のひととき | ナノ


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あの人が、雪花さん…が、まさかの本物の超能力者で、俺の正体なんて初めっから見抜かれてて、それで俺のことが…好き…で…?

ダメだ全然理解が追い付かない。
百歩譲って超能力ってのがマジであったとして、あの人が本当の本当にそうだったとして、俺に執着する理由はなんだ?

好きって言ってたけど…意味が分からない。
俺の心を読んだのたとしたら本当に俺のことを好きになる筈なんてない。
俺なら絶対ならない。

それも意味分かんないポイントではあるんだけど…そもそもあの人は謎が多過ぎる。

店長との会話の意味も気になるし…。

「あー!!もうキャパオーバーだぁ…」

「お悩みのところ悪いんだけどねぇ」

「うわっ、ハイ!店長!」

俺が休憩室で頭を抱えていると、いつからそこに居たのか、店長が溜め息混じりな声で呼び掛けてきた。

思いっきり自分の世界に浸っていた俺は驚きすぎてガタッと椅子ごと倒れそうになったんだけど…すげぇ恥ずかしい。

苦笑いしながら振り返った俺に、腕組みをして立っていた店長は淡々と告げた。

「久々にお客さんよ。地下室の」

「…はい、すぐ行きます」

上の方はともかく、こちらのお客さんは本当に久しぶりだ。どうしてだか分かんないけど、一日に二、三人は来てた地下室のお客さんもある時から一日に一人来るか来ないかになったもんな。
というか、今日のお客さんで数日…いや下手したら数週間振りな気がする。体感だけど、それくらい地下室のお悩み相談室は閑古鳥が鳴いていたのだった。

チリンと久々の音が来客を告げる。
部屋に入ってきたのは、恐らく結構大柄な男性だった。今度はどんなお悩み相談だろうと、久々の俺は少しドキドキして待機する。

だけどどうしてだろう。
何だか場の空気が…冷たく感じた気がした。暖房はちゃんとついている筈なのに。

「私はね、実は…」

「実は…?」

席に着くや否や、お客さんが話し始める。変声機も使わないらしい。
やけに低い声だな。

どうして。

どうしてこんなにひやりとするんだ。
どうしてこんなにドキドキするんだ。

何だかすごく…嫌な予感がする。

「実は…殺し屋なんだよ」

ジャキンッという金属音とともに、相手が立ち上がったのが分かった。
俺も反射的に立ち上がって身構える。

ヤバい、俺このままじゃ…。
あぁこんなことなら、あの人の忠告ちゃんと聞いておくべきだったな…。

「悪く思うなよ!依頼だからなぁ!!」

「蓮くん、ちょっと寝ててね」

「へ…?」

突然俺の後ろに現れたのは聞き慣れた声、そして安心する匂い。
目隠しをするように、目の上に温かい何かが当てられる。そしたら何だかとてつもなく眠くなって、俺の意識は遠のいていった。



「………ろ!」

「………っ!こっちだって…………」

何だ…誰かが言い争ってる声がする。
それも何だか俺の知ってる声みたいだ。

「だからさっさと蓮くん解放しろっつったろこのクソババアッ!」

「だぁれがババアだこのクソガキがっ!」

「ババアはババアだろうが!大体アンタがあんなくっせぇ客寄せ香焚いてるからいけねーんだよ!」

「はぁ?!魔女舐めんじゃないよ!あんなチンピラまで呼び込んだ覚えはないわ」

「実際入ってきてこの子危ない目に遭わせてんじゃねぇか!おれがいなかったらどうしてたんだ?!あ"?!!」

「よく言うよ、どうせ四六時中その子のこと監視でもしてんだろ?こんの変態ストーカーが」

「誰が変態だって?」

「ん………うっさ………なに」

「「蓮くんっ!!!」」

次に俺が目覚めたのは、スタッフ休憩室だった。そこに居たのは店長と…雪花さん?
何かものすごい荒い言葉が飛び交っていた気がするんだが、俺が目覚めた途端二人がぐるんと首を動かして俺を見た。
タイミングが揃い過ぎててちょっと怖い。

「ていうか何で俺…抱き抱えられてんの」

「そりゃもちろん、介抱してるんだよ」

いつも通り雪花さんの笑顔が眩しいが、どこか胡散臭い。

俺が目覚めたのは見慣れたスタッフ休憩室なのに、どうしてだか椅子に座ったかの美人さんの膝の上に抱き抱えられているという、何とも理解のしがたい状況なのだった。抱き締められてる、の方が近いかな。

本当いい匂いするなぁ…じゃなくて。

「店長、俺」

「危ない目に遭わせてごめんなさいね…こちらでも対策を考えるわ」

「そんな必要ないですよ。じゃ、彼も目覚めたことだしおれたちはこれで」

「え、え?」

「待ちな」

「なに」

「助けてくれたことには礼を言うわ。ただしその子におかしなことしたら容赦しないわよ」

「どの口が言うんだクソババア」

「んだとクソガキ」

店長めっちゃ口悪いじゃん。
というか雪花さんも…。

そんなことを考えているうちに、プラチナブロンドが揺らめいて俺の頬を擽った。

「じゃ行こうか、蓮くん」

「いやあの、え」

抱き抱えられたまま、一瞬で景色が移り変わる。
そうして気がついたら俺は、今度は自分の部屋に居た。

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