mitei ユークレースの温度 | ナノ


▼ day2

俺って結構、自分で思っていたよりも順応力が高いのかな。
もっとこう、何の特徴も無い平凡だと思ってた。何ならこの世の平均値のど真ん中を右往左往するモブ代表くらいだと自負してたんだけど…。

初対面の幽霊と同衾してぐっすり眠れる時点で、きっと普通じゃないよな。というか同衾ってなんだ。
というか何で一緒に寝てんだ。というかやっぱり、幽霊でも寝るのか…。

朝起きても、変わらず彼はそこに居た。俺が着替える時、気のせいかユーくんの眼差しが真剣なものに見えた気がするんだが、気のせいということにしておこう。
もうこれ以上考え事を増やしたくない。俺のベッドの上で胡坐をかいて見つめてくるユーくん。彼のその瞳も髪も相変わらず不思議な引力を纏っていて、朝陽によってその威力はこれでもかと増している。

俺はあまり彼の方を見ないようにしながら学ランを着て、痛いほどの視線の中、無造作に跳ねた髪を適当に押さえつけた。



ユーくんはやっぱり当たり前のように学校にもついてきた。学ランとセーラー服の平凡な高校生たちの中に、明らかに異様な美貌を放つモデルのような男。
本来ならば人が殺到してもおかしくないのに、通学路でもやっぱり誰も彼に見向きもしないし、クラスメイトも気にせず俺に声をかけてきた。

昨日のことが夢じゃなかったことくらい、朝目が覚めた時から分かっていたことなのに。
何度でも実感してしまうが、ユーくんは普通の人には視えないみたいだ。

俺も普通の人なのに。おかしくないか。

振り返ると、こてんと首を傾げて微笑むばかりの彼のことはもう大型犬か何かだと思うことにした。笑顔にやたらと破壊力があるが、その破壊力を受けるのは悲しいかな俺だけである。

何でだよ。

昨日から何回心の中で突っ込んだだろう。俺は芸人志望じゃないし、何度でも声を大にして言うが霊感どうこうも微塵もない。本当にないんだ。
…ないよな?ない、と思う。

もしかしたら学校には隠していたけど実は…という感じの奴がいて、そいつにはユーくんのことが視えたりして、相談が出来たりなんかするんじゃないかとか思っていたんだが…。
どうやらそれも馬鹿げた妄想だったらしい。

通学中、実は昨日からずっと期待していた「ドッキリ大成功!」軍団も顔を見せてくれなかったし…。

まぁそんなことは現実逃避で、昨日彼が俺以外の人間には触れられなかったところを見てしまってからこの現実を受け入れるしかないことなんて分かってはいるのだが。

ちくしょう、ユーくんめ。どうしてこうも俺に構いたがるんだ。
俺は彼に助けられはしたものの、助けた覚えはない。

振り向けば何度でもふわりと微笑む破壊力抜群の顔と、細められる鮮やかな水色。

その表情に絆されそうになるのをグッと堪え、俺は教室へと向かった。

教室へ入るといつものメンバーが次々におはようと挨拶をしてきて、宿題はやったのかとか、今日は体育あるよなとか、いつも通りの会話が繰り広げられる。

その温度感に少し安心しながらも、振り返ればやはり彼はそこに居た。…けれど。

友達に囲まれる俺を見てはいるが、微笑んではいない。寧ろちょっとムッとしているようにも見える。

何だろう、何か不快に思うところがあったのか。
やっぱり、俺以外の奴らには視えないことが不満なのだろうか。

チャイムが鳴る。先生が入ってきて、皆と同様俺も自分の席につく。窓際の一番後ろという何とも贅沢な特等席だ。

ふと、彼はどうするのだろうとまた振り返ってみると、当たり前のように俺の後ろにある棚の上に足を組んで座っていた。

うわぁ。

授業参観に来た、ものすごく態度のでかい父兄のようである。まぁそれも俺にしか視えていないから問題無いのだろうけど。

すらりと長い脚は窮屈そうにたまに組み替えられて、古びた教室の中なのにまるでモデルの撮影でもしているような光景だった。

う、うわぁ…。

授業参観でこんなひとが来ていたら最早授業どころではないだろうな…。というか、校門の辺りで既に囲まれてしまいそうだ。

組んだ膝の上で器用に頬杖をついていたユークレースは、俺が見ていることに気づくと黒板からすいと目線を移した。
この色気が俺にしか発揮されないのだと思うと、本当にもったいなく思う。本当に。

いつの間にやら機嫌が治ったらしく、ぱちりと合わさった視線にはまた、柔らかな微笑みが織り交ぜられる。

くそう、眩しい…。

ひらひらと振られる手に特に反応を返すこともなく、俺は授業に集中することにした。

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