「ねぇ、そのバラのブローチって…」
店に来て着替えている時、店長が俺のリュックに付いているブローチを指差した。
「あ!これ、この前お客さんに貰ったんです。ネームプレートに付けたかったんですけどやっぱりちょっと大きくて」
「…ふうん」
あれ、何か店長黙っちゃった…。やっぱりお客さんから物を貰うっていけなかったのかな。いややっぱり駄目だよな…怒られるかな?
と、思いきや。
「いいんじゃない?可愛い」
にっこりと口角を上げて店長が囁いた。
するりと細長い指が伸びてきて、俺の耳元に触れる。
カサついた指先が少し耳朶に触れ、ぴくりと少し肩を揺らしてしまった。
変な驚き方をしてしまった恥ずかしさで頬に熱が集まる。
「ここ、寝癖付いてるよ」
赤面する俺なんて気にも止めず、ぐっと顔が近づけられた。ふわりと鼻腔を擽る、甘い花の匂い。香水…じゃなくて、店内の花の匂いが移ったんだろうか。
ぴょこっと少しだけ外側に跳ねた毛の束を指先でくるくる弄んで、普段は大人っぽい店長が珍しく子どものように「あははっ」と声を上げて笑った。
「うん。本当に可愛い」
そんなに笑わなくても…。
ひとしきり笑った店長の目尻には少し涙が光っていた。
「すみません…直しておきます」
子どもみたいって思われたんだろうなぁ。
歳は五、六個くらいしか変わらないはずなんだけど、どうにも子ども扱いされているような気がしてならない。
基本的に店長は誰にでも優しいけど、俺に対しては心なしか慈愛に満ちた…小さい子を見守るお父さんみたいな眼差しを向けられている気がする。
俺が童顔だからだろうか。
そんなに危なっかしい感じなのかな。
何だか複雑な気分だ。
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