mitei リナリア | ナノ


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人通りの多い駅前の賑やかな商店街…からちょっと外れたところにある小ぢんまりとした町の花屋。

店頭には贈答用にラッピングされた小さな花束や季節に合わせた植物の鉢植えが置かれ、ガラスの扉を抜けると店内には色とりどりの花が所狭しと咲き乱れている。

誕生日のお祝いや結婚記念日、入学式やプロポーズ…花は人生のあらゆる大切な場面に欠かせない。
もちろん特別な日でなくても、日頃の思いを花と共に伝えることも出来る。

この店では今日も誰かが大切な人のために花を買っていくのだ。
そんなお客様を観察するのも、ここで働く俺のささやかな楽しみであった。

「お、今日も来たな」

駅からちょっと離れたところにありながらいつも女性客で賑わっているこの店には少し風変わりな常連さんがいる。

「いらっしゃいませ」

「やぁ。今日はこれ、もらえるかな」

そう言って可愛らしい青い花を手にレジに来た男性。
女性客が多い中でも珍しい、男性の常連さんだ。それもただの常連さんではない。

この常連さんはいつも高そうなスーツをピシッと着こなしており、そのぴったりとしたラインは彼のスタイルの良さを際立たせている。立ち居振舞いも見とれる程美しく、まるで海外セレブのような華々しさがある彼が来店すると、店内のお客様が色めき立つのだった。

「ありがとうございます。プレゼント用ですか?」

「あぁ。君の好きな色でラッピングしてくれ」

爽やかな笑顔を浮かべるこの紳士は、毎日毎日同じ時間帯にやって来ては違う花を買っていく。趣味で花を育てている人なのかな、とも思ったがどうやらそういうわけではないらしい。
毎度プレゼント用として買っているみたいだから、きっと恋人にでも送っているのだろう。
こんな見目麗しい紳士から毎日花をもらう恋人はきっとすごく素敵なひとなんだろうな。
そんなロマンチックなことをする人が本当にいるなんて。それもこんな俳優のようにカッコいい人が…。
何だか映画みたいで、想像しただけでわくわくしてしまう。

「今日も綺麗だ。ありがとう」

そう言って彼は今日も満足げに帰っていった。さっき俺がラッピングした花を、まるで大切な誰かそのもののように大事に大事に手に持って。

…本当に映画のワンシーンみたいだなぁ。

他のお客様も同じことを考えているのか、店内のあちらこちらからほうっと溜め息が聞こえる。

「今日はアガパンサスかぁ。愛を伝えるにはぴったりだな」

「また来たんだね、彼」

「店長。今日はアガパンサスを買っていかれました」

「そっか。相変わらずロマンチックだなぁ」

アガパンサスは「愛の花」として親しまれており、プレゼントにも重宝される可愛らしい花だ。
花言葉は確かラブレター、だったかな。

あの紳士は毎回違う花を買っていくが、彼が買っていくのは決まって愛の花言葉を持つ花ばかりだった。それもすべてプレゼントで。
やはり恋人に送っているとしか考えられない。なんて情熱的な人なんだろうか。

「どんな人に送るんでしょうね」

「さあ?でもすごく可愛い子だと思うよ。
そういえば初めて買っていかれたのは赤いバラ一本、だったね」

「店長よく覚えてますね」

赤いバラ一本、か。
バラはプレゼント用の花として最もポピュラーな花ではあるが、実はその本数で花言葉が変わる。
赤いバラ一本だと確か…。

「一目惚れだったんだろうねぇ」

…一目惚れ。あの紳士が。
相手は一体どれほど素敵なひとなんだろう。

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