mitei 重なる手 | ナノ


▼ 1

…しようかな。

食器を片付けながらぼんやり考えた。

別に誰かとしたことがあるわけじゃないから俺は所謂どうt、ゴホンゴホンッ…だから自分でやる必要があるわけで。

まぁそれはいいとして。

ふぅーっと深く息を吐き出して、テレビを消音にした。ぎしっとベッド脇に凭れかかり、足を広げてズボンをくつろげる。
ゆっくりパンツの中に手を差し込んで、出来るだけ見ないようにして自分のものを取り出した。
正直自分のものとはいえあまり触りたいものではないし、早く終わらせてしまいたかった。

そういえばサークルのやつらにもらったヘンなDVDとかあったな…。
要らないって言ったのに半ば無理矢理押し付けられてしまい、観る気もなかったのでどこにしまったのか忘れてしまったが。

まぁいいか…さっさと終わらせよう。
はぁっと溜め息。大丈夫。誰も見ていない。

部屋でひとり手を動かしながら、何で俺は男に生まれたんだろうなんて漠然と考える。とは言え別に女になりたい訳じゃなくて、単純な疑問だった。遺伝子の決定方法とか生物学的なことは専門じゃないし分かんないけど、方法はどうあれ俺が男に生まれたことは偶然だったんだろうか。
神様の気まぐれ、的な。

それとも、神様は忙しいから俺一人にそこまで手をかけられないかもしれない。ファンタジー染みた解釈だけど、流れ作業的に性別を決定したのかな。

そんな色気のないことを考えているせいか、指先からの刺激だけでは俺のものは中々勃ち上がらない。…だろうな、という気分である。
いっつも答えの出ないことを考え過ぎるのが俺の悪い癖だ。

ちょっと頑張って難しい思考を放棄し、サークルの奴らに見せられた画像や動画の数々を思い出す。俺の趣向調査とか言って、ありとあらゆる種類の画像を見せられたっけ。俺はそれを見ながら、世界は広いなぁなんてぼんやり思っていた。

やっぱり駄目だ。今までどうしてたっけ。
一旦休憩。手を止めた。

消音にしたテレビからは何も聞こえない。画面が切り替わる度に、部屋の白い壁に色とりどりの淡い光が反射するだけだ。
ブーッと、冷蔵庫から断続的に低い音がする。たまにどうしたのかと思うほど大きくなって、しばらくして大人しくなる。
買い替え時には、まだ早いと思うんだけど。

…もし俺が男じゃなかったら。
どうしようもなく答えの無い問いに、俺の思考は引き戻されていく。

もし男じゃなかったら、というのはそもそもどういうことだろう。
女だったら、ということか。
だけど身体が女でも男の人はいるし、逆に身体が男でも女の人はいる。
その辺りは中々一概には定義出来ないから、心身共に女だったら、ということにしよう。

…いや駄目だ。そう言えば知り合いに、身体は女で心も男というわけでもないが、女というわけでもないってひとがいたな。
ややこしいだろうが、どうやら男じゃない=女であるという単純な方程式は成り立たないらしい。その基準はやはり個々人によって全く変わってくるのだろう。

ぐるぐる。ぐるぐる。
このままではまたエンドレス思考ループだ。「本当にそうなのか?」と議論したがる面倒な俺を奥へ奥へと押し込んで、再び意味もない仮説に立ち返る。

もし俺が女だったら。
こんなことを考えても何の生産性もないのだが。
とりあえず、女だったらこんなものはついていないだろう。わざわざ触って処理しなくても済むわけだ。
始めからただそれが言いたかっただけなんだけど、そこに辿り着くまでにまた随分と脳の糖分を消費したもんだ。
まぁ女だったら女だったで別の苦労があるようだし、別に羨ましいとは思わないけれど。俺の母さんはあまりそういうのは見せない人だけど、それでもお腹が痛くなったりイライラしたりで大変そうだった。
それもまた人によって違うらしいが。

女だったら、か。
性別が違えば、今の交遊関係も変わってくるんだろうなぁ。それでも俺の本質は俺のままで、人の輪に馴染めるように今度はキャッキャッとした女子大生の恋バナにでも混じるのかもしれない。
あの人がカッコいいとかどんなタイプが好みだとか、そんな話題を聞くともなく聞いて抑揚のない相槌でも打っているのだろうか。それならば今とさして変わらないな。

…もし俺が女だったら。
あいつとは、友達になれていなかったのかな。

さらさらと揺れる前髪からちらりと覗く、灰色。

ふと思い出して、心臓がどくりと起き上がった。
何だ、さっきまであれだけゆっくりしていたくせに。

凛とした落ち着きのある声。
目を伏せたときに影を落とす、長い睫毛。

ひとつひとつ鮮明に思い出して、さっきまで大人しかった俺の身体が熱を持ち始めた。無意識に、中心に手が伸びる。

あの大きな手。
繊細で、しかし男らしく骨張った美しい手。

あの手ならば、俺のこのちっぽけなものなんて簡単に包み込んでしまうのだろう。

俺は、何てことを考えているんだ…頭の隅の隅で、冷静な理性が俺を罵る。
だけど止められない。

細長い指が、俺のものに絡み付く。
実際に触っているのは自分のどうしようもなく汚れた手なのに、その上から彼の色素の薄い指が重なって…。

「…っは、ぅ…っ!」

擦る手が段々と速くなる。
さっきまで全然反応しなかったのに。

冷静な方の俺が、意識の外に追いやられていく。
何で、こんなこと…。消えゆく理性が呟いた。
代わりに大きくなる、別の声。
低くて透き通っていて、静かなのにどこまでも響き渡りそうな、あの声。

切れ長の瞳が弧を描いて、なきぼくろが僅かに歪む。

俺の中の醜い熱が、どくどくと中心に集まってきた。もう、止められない。

『秀』

あの声が、俺の名を、呼んだ。

「………れ、い…っ」

そうして、醜い俺を一気に外に吐き出した。
達する瞬間、思わず零れた彼の名前。

……………やってしまった。

おかえり、冷静な俺。
もういっそ帰ってこなくても良かったのに。出来ることなら自意識に鍵をかけて追い出しておきたかったよ。

戻ってきた理性が激しく俺を責め立てた。
俺は…何てことを…何で、何であれだけ反応しなかったのに、よりにもよって親友で…最悪だ。最低だ…。

はあーっと深く深く溜め息を吐いた。

「…最っ低だ…」

そう自覚していたってやってしまったことは変わらないのに。

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