mitei ありのままのきみを | ナノ


▼ ありのままのきみを

「ありのままのきみがすき」という言葉が嫌いだ。というより、おれにはよく分からない。

秀という存在そのものがおれのすべてだから、秀が「ありのまま」に振る舞おうと、「ありのまま」を繕おうとも、それは秀を構成する要素の一部であって、すべて秀なんだ。
だからおれにはどっちだって構わない。
秀が「ありのまま」だろうがなんだろうが、秀は秀なのだ。
彼がどのように振る舞おうとその事実は変わらない。

ただ彼が望むようにすればいいし、それを邪魔しようとも思わない。

だけど、おれ以外のものになるのはゆるさない。

昔っから秀の周りにはいつも人がいっぱいいた。
「明るく人懐っこい秀」は例え彼が作り出した虚構だとしても、やっぱりそれは魅力的のようで、光に群がる虫けらみたいに、人は彼に惹き付けられる。
まぁ本人は周りに合わせているつもりで、そんなことは分かっていないみたいだけど。
秀はちょっと口が悪いけど素直で、よく周りを見ていて、ネガティブなくせにいっつも自分より他人のことばかり気にかけている。
「明るく人懐っこい秀」以外の、そういう彼の本質がまた目ざとい人間を引き寄せちゃうんだ。

そんな不器用な彼を、おれはばかだなぁ、と思うけれど、それがまた愛しくて愛しくてたまらない。
そんなところもたまらなくかわいい。

しかし大学に入ってから、秀の周りにちょっと邪魔な奴がうろつくようになった。
目障りだったから、良い機会だった。
結局自爆してくれたし、色々手間が省けた。
ただ、秀を怖がらせたのは、流石にちょっとイラついたかな。

余談だけど、あの後あの変態には釘を刺しておいた。もう2度とおれの秀に近寄れないように。
家とか個人情報とか交遊関係とか誰にも知られたくない秘密とか、興味ないのに色々調べるのちょっとめんどくさかったけど、しょうがない。
ああでもしないとしつこそうだったし。

ああいう変態は初めてのパターンだったから、今後も気を付けなきゃね。

可愛い可愛いおれだけの秀。
おれと話すときちょっと見上げる仕草も、無意識の上目遣いも、大人数のときは饒舌なのにおれとふたりの時だけ静かになるのも、全部全部おれだけが知ってる。
かわいくてばかな秀は、おれの声に逆らえないことも。

「秀…知ってるよ。お前が流行りのあの歌を聴いて独り吐き捨てた言葉も」

帰るとすぐ独り言で発散してしまう誰にも言わない愚痴も、人懐っこいように振る舞っておきながら人のことを悪く考えてしまう自分が嫌いなことも、靴下は絶対右から脱ぐことも、身体は左手から洗うことも、誰にも言わないけれど好きなラジオ番組も、流れるとついつい口ずさんじゃうCMソングも…

もちろん、いつどこで、だれといるのかだって。

おれは、ぜーんぶしってる。

だけど、かれの本心だけは見えないから。

かれの心に、棲みついてやろうとおもった。
ずっと、おれのことをかんがえててほしいから。
かれの、一部になりたいから。

かれの「ありのまま」を構成する要素の一部に、いつかなれればいいなぁ、なんて。

おれの声を聞くと落ち着くことも、おれがじっとかれの目を見て話すのがすきなことも、おれといる無言の空間がすきなことも、おれといると安心することもしってるよ。

だっておれがそうなるようにしたんだから。

おれ無しじゃいられないように、どこへ行っても絶対ここに帰ってこられるように、かれの心に、たくさんおれの居場所が出来るように…

はやく、秀のなかがおれでいっぱいになればいいのに。

もっともっと、依存させてあげる。

end.

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