mitei ありのままのきみを | ナノ


▼ 2

「しゅーうーちゃんっ」

「宮原…またお前か」

「今日も秀ちゃんはかわいいねぇ。
はやく俺と付き合ってよ」

「ないない。うるさい」

「俺にだけ冷たいとこもすてきーっ!」

(…うざい。)

明るめの茶髪に天然パーマ、タレ目がちな目とすっと通った鼻筋。スラッと伸びた手足はモデルのような体型で、雑誌に載っててもおかしくなさそうな見た目だが、宮原は見た目通り中身もチャラいらしい。

毎日毎日俺にまとわりついては、かわいいだのすてきだの、付き合ってだのとせわしない。
わざわざ俺なんかに言わなくても、こいつなら選び放題だろうに…。
たまたま大学のサークルで知り合った宮原は初対面からずっとこんな感じだ。
最初は明るいし話しやすいから、ちょっとノリのいい友人、という感じだった。
褒められたり好きだと言われるのは流石に最初は恥ずかしかったが、いつもこんな調子だから告白じみた台詞も冗談だと思って軽く流すようになった。
とは言え、それが本気か冗談かたまに分からなくなることがあった。

「宮原、いい加減にしろよな」

「んー?何がぁ?」

「だから!そういう」

「好きだよ、秀ちゃん。
そのままのきみが好きだ。」

さらっと少女漫画みたいなことを言う。
台詞そのものは真っ直ぐで、聞いていて何だかむずむずする。さっきまでヘラヘラ笑ってたのに急に真面目な顔をするもんだから、一瞬ドキリとしてしまった。
危ない危ない、流されちゃ駄目だ。
後ろで見ていた女子たちから「きゃああ!」という悲鳴が聞こえる。黄色い声っていうんだっけ。
ていうか何だ、そのままの俺って。宮原とは大学ですれ違うかサークルの集まりくらいでしか会ってないし、そのままの俺なんて見せたことないぞ。俺大体猫被ってるしな。

「だから、早くちゃんと俺のものになってねっ」

語尾にハートか星でも飛んでそうな調子で言い放ち、ウィンクして宮原は去っていった。

「なんだ、やっぱり冗談なのか…?」

結局よく分からなかった。
ていうか、ちゃんと?って、なんだ。
どういう意味だろう。何かもう分からないことだらけだ。

「秀」

ひとり混乱していると、後ろから名前を呼ばれた。聞き馴染みのある、低くて落ち着いた声。静かだけど、遠くまで響き渡りそうな、澄んだ透明感のある声。

「零、授業終わったの?」

「うん」

「じゃ、食堂行こうぜ」

高校からの友人である青山は、宮原と違ってとても大人しい、落ち着いた奴だ。
切れ長の瞳は表情によっては冷たい印象を与えることもあるが、色素の薄い、灰色のその瞳の中にはまるで花が咲いているように見えて、ずっと見ていると吸い込まれそうになる。
目元に大きめのなきぼくろがあり、癖のない髪が風に煽られるたびに、伸ばされた前髪からチラッと覗くのがやけに色っぽい。
青山の背が高いせいで、こいつと話すとき俺はいつもちょっと見上げる形になる。
長いさらさらの前髪は彼の綺麗な瞳を隠してしまうが、下から見るとちょっと覗く宝石のような瞳が、いつも真っ直ぐに俺を見て話すその輝きが好きだ。
恥ずかしいから絶対言わないけど。

青山とは高校一年の時同じクラスになってから、特にきっかけがあったわけじゃないけれど、気がつくといつも一緒にいた。
帰る方向もたまたま最寄り駅がひとつ違うくらいだったので、部活が終わる時間が合えば大体一緒に帰っていた 。
ちなみに俺はサッカー部、青山はバスケ部だ。
大学も、同じところに行こうと約束したわけでもないのに、たまたま同じところが受かった。学部は違うけど。

「工学部…だっけ?授業ってどんなの?面白い?」

「まぁ、それなりに」

青山は口数が少ない。質問には答えるが、果たして答えになってるのか…ってときも多々ある。が、俺は気にならなかった。
二人でいてもずっと無言のときも多いが、別に気まずくはなかった。
周囲には俺は明るくノリのいいキャラで通ってはいるが、実は大人数で騒いだりするのがそんなに好きな訳ではない。だから、こいつと二人でいるときの無言の空間は、むしろ心地よくて好きだった。
話したいときに話せばいいし、聞いて欲しいと思ったことはちゃんと目を見て聞いてくれる。
青山はいつも、俺の言葉をひとつひとつ丁寧に拾ってくれるから、何気ない会話でさえとても大事に思えた。

「ねぇ、秀」

「んー?」

「呼んでみただけ」

「?そっか」

何気ないやりとり。
だけど、口数の少ないこいつが用事もないのに呼びかけるなんて珍しいな。何か言いたいことでもあるんだろうか。
そう思ったが、顔を見てもいつも通りの無表情だったので、何も聞かないことにした。
まぁこいつに名前を呼ばれるのは、嫌いじゃないし。

「零」

「なぁに?」

「別に。呼んでみただけ」

ちょっとした仕返しだ。
見上げなきゃ表情はちゃんと分からないけど、何となく、青山が笑った気がした。

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