ANOTHER's story

∴ 03


男の仲間が、不思議そうに声を掛けた。


「お、おい・・・」


「う…そだろ、何でここに?」


「俺ぁ、幽霊か何かかぁ?ああぁん?」


聞きたくて仕方なかった声が、背後から聞こえて、私は顔だけ後ろに向けた。
目に入って来たのは、やっぱりチカちゃんで。


「チカちゃん!どうして?」


「ちぃ、大丈夫か?何もされてねぇな?っつぅか、してたらただじゃ済まさねぇけどよ」


チカちゃんは、そう言って私の腕を掴んでる男二人を交互に睨んだ。
男たちは、息を飲んでパッと手を離して、固まっている男のもとへ駆け寄る。


「チカちゃん、ありがと。恐かった・・・」


意に沿わないお誘いから解放されるや否や、助けに来たチカちゃんの腕の中に飛び込んだ。
ここは、私の一番安心できる場所。
チカちゃんもそっと私の背中に手を添えてくれた。


「お前ぇら、酔ってる女連れ込もうたぁ、恥ずかしげも無く良くやるな!」


「Hey、ちぃ!どこだ!?」


「政宗君?」


「そこか!」


チカちゃんの陰から声だけ出すと、政宗君が慌てて走り寄り、チカちゃんの腕の中から私を取り出し、自分の背の後ろに隠した。


「お兄さんがた、ちぃに何しようとしてんだ?」


「政宗君、チカちゃんは私をあの人たちから助けてくれたの。だから、違う」


チカちゃんを含め、自分と私以外の男を睨む政宗君。
その様子に、私は慌てて誤解を解かなくてはと、裾を引っ張って政宗君に訴えた。


「何だと?ふぅん・・・」


今の状況を説明すると、政宗君はチラリと何故かチカちゃんを見て眉を顰めて、嫌そうな顔をする。
そして、男たちに向かって、顎でどっか行けと指図した。

男たちは、慌ててその場を去って行く。
そして、チカちゃんの方に向き直り、睨みつける。


「で、アンタはちぃの何なんだ?」


「ああぁん、何でお前ぇにそんなこと言わなきゃならねぇんだよ」


チカちゃんも、同じように顔を顰め、互いに睨み合う。


「チカちゃんも政宗君も、止めてよー」


間に割って入る形で、二人の真ん中に立つと、チカちゃんと政宗君は同時に顔を背けあった。


「おい、ちぃ。帰ぇるぞ!未成年のくせに酒なんて飲みやがって」


「ごめんね、チカちゃん」


「おい、もう誕生日は迎えてるだろうが!

Happy birthday!ちぃ、二十歳だな。俺はこれを言うために探してたんだ」


「ありがとう。じゃあ、もう、お酒も飲めるね」


私がくすっと笑ってそう言うと、チカちゃんは口を曲げて不機嫌な声を出す。


「ああ、もう。ちぃ、ほら早く行くぞ!じゃあな、クソじゃり!!」


「チカちゃん、待って!

ごめんね政宗君。また明日。ちゃんと考えて返事するね。さっきは来てくれてありがとう。それとお祝いの言葉も」


「良いってことよ、気にすんな!それに俺はちっと遅かった見てぇだしな」


そう言って眉を下げた政宗君に手を振って店を後にした。


「チカちゃん、本当にありがと」


「おう、もう恐くねぇか?」


「平気、チカちゃんが居るもん。ね、でも、どうして居たの?」


まさか、自分の声が聞こえたはずも無く。
あまりのタイミングの良さに、首を捻るしかない。
数あるお店から、あそこに偶然辿りつけるはずも無い。


「ちぃのおふくろさんから、帰りが遅くて心配だから、見に行ってやってくれって頼まれて来てみたら、いきなりあんなことになってやがって」


「そっか、タイミングバッチリだね。
いっつもそう。困った時にチカちゃんは来てくれるよね。私の正義の味方だよ」


「泣く子も黙る俺が、正義の味方たぁ、笑い話だな」


家に帰る道すがら、他愛も無い話で盛り上がれるこの関係は、居心地が良すぎる。
それが何故かも分かっているだけに、ちょっと寂しくもあった。
お隣なのに、門の前まで送ってくれるチカちゃんに、自然とニコッと笑いかけた。


「今日はありがとう。おやすみなさい、チカちゃん」


「あ、おいちぃ!」


門の中に入ろうとする私の手を掴んで、チカちゃんが私を呼び止めた。


「なぁに?チカちゃん」


「明日は俺が会場まで送ってやるよ。式は何時からだ?」


「10時からだよ」


「分かった。用意が整ったら、インターフォンで呼び出してくれ」


「うん、お願いします!じゃあ、今度こそ・・・」


そう言っても離されない手。
私はチカちゃんに身体ごと向き直った。


「ちぃ・・・」


「うん・・・」


「誕生日おめでとう。コレ」


そう言ってぶっきらぼうに差し出されたのは小さな箱。
中を見るとハートの形をしたピアスが入っていた。


「ありがとう・・・でも、コレ・・・」


私は何の傷も無い耳タブに触れて、プレゼントに戸惑った。


「ちぃ、俺のためにピアスホール、空けてくれないか?」


チカちゃんがそう言ってそっと私の耳に触れる。
その感触にぴくっと身体を震わせた。


「うん、分かった。大人になった記念に、開けようかな」


私がそう言うと、幼い顔でチカちゃんは、嬉しそうに微笑む。
この笑顔は、ほとんど見た人はいない。
私だけの特別なもの。




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