ANOTHER's story

∴ 04


石田さんに助けてもらうという、良いことがあった週の週末。

私は足の赴くまま散策していた途中で、偶然自分好みのど真ん中なカフェを見つけ、早速入ってスイーツを食べることにした。
こうして休日に、行ったことの無いカフェを回るのが私の楽しみだ。

いつか自分のカフェを開きたい、なんて実現するか分からない夢も持っている。


紅茶とりんごのタルトを味わっていた時、カフェのドアが可愛らしいベルを鳴らしながら開いた。
そして入って来た人に何気なく目を遣ると、あまりにも意外な人物が目に飛び込んで来た。


「い、石田さん!?」


私は思わずポカンとした表情でそう声に出してしまっていた。
私の声は入り口に立っていた石田さんにも届いたらしく、石田さんも席に座っている私を見て驚いた顔をした。


「何故佐倉が此処に・・・」


そう言うと、気まずそうに視線を彷徨わせる。


「あの・・・どうぞ良かったら」


そう言って自分の前の空いている椅子へ促した。
石田さんは逡巡したようだったが、少し赤い顔をして私の席の前に腰を下ろした。

石田さんは休日でもだらしのない恰好は好まないようだ。
インテリな細身の彼に良く似合う、全体的にきちんと感のある服を身に纏い、そして会社では見かけたことは無かったが、眼鏡を掛けていた。

何だか今更自分がそんな彼と一緒に居るのはそぐわない気がして、周囲が気になり始めた。
そもそもよくよく考えれば、私と一緒の席に座るなんて、石田さんは嫌だったかもしれない。
席に座ったきり何も言わずに、こちらも見ない石田さんを見て、私は同席を促したことを申し訳なく思い始め、軽く後悔する。

彼が何も話さないのは、私と一緒なのが恥ずかしいから、かもしれない。

そんな風に考えを巡らせていると、石田さんが何も言わずに俯いていた顔をガバッと上げた。


「・・・このことは誰にも言うなっ」


石田さんはそう噛みつくように言う。
私はその勢いに飲まれ、思わず何度も首を縦に振った。

そこに店員さんが、石田さんに注文を取りに来るやってきた。


「あら珍しい。石田さん今日は待ち合わせだったの?」


「ち、違う!」


「うふふ。可愛らしい彼女さんね」


「・・・っ、違うと言っているだろう!」


「注文は今日もいつもので良いかしら?」


「ああ!」


どうやら店員さんとそこそこ親しいようだ。
そして『いつもの』と注文できるこのカフェは、石田さん行きつけのお店だったらしい。

石田さんは赤くなった顔を隠すように、俯き加減にぶっきらぼうに返事を返す。
店員の女性はそんな石田さんの様子も意に介した様子も無く、くすくす笑いながら奥へと戻って行った。

私は気まずい雰囲気で石田さんをチラッと見た。
もしかしたら私がここに居ることが、彼を怒らせてしまっているのかもしれない。


「何だ」


私が見ているのに気付いたのか、女性店員さんが立ち去ってから黙ったままの石田さんが、私の方に視線を向け問いかける。
ただし、顔は相変わらず顔は俯き加減のままだ。


「いえ、あの・・・何かお気に触るようなことでもしちゃったかなと・・・」


私がそう言ったところに、ちょうど先程の女性がお盆に注文の品を乗せてやって来た。
通常より早い用意は、多分石田さんの姿が見えた途端にキッチンの方で用意がなされたためだろう。


「んふふ、石田さんは照れ屋だから、照れているだけよ。気にしなくても大丈夫。でしょう?」


女性店員さんにそう言われた石田さんは「ふん」と言って顔を逸らす。
でも、その石田さんの前に置かれたものに、今度は目を瞠った。
何と、甘いものが苦手だと噂の石田さんの前にカスタードプリンとコーヒーが置かれたのだ。


「え・・・?」


私が驚いた顔をして石田さんを見ると、石田さんの顔がますます赤くなった。


「そんな目で私を見るな!」


「ああ、す・・・すみませんっ!!あの・・・甘いもの、苦手なんじゃないのですか?」


「む・・・私はそんなことは言った覚えはない」


石田さんは真っ赤顔に、困ったような眉を寄せた表情でそう答える。
どうやら本当に女性店員さんが言った通り、照れているらしいと分かった。

女性店員さんは「ごゆっくり」と言い残してテーブルを離れた。
私は再び石田さんと2人きりになった。


「おい」


「は、はい、何でしょう?」


石田さんが突然私に声を掛ける。
石田さんから話しかけられるとは思わず、何の心構えもしていなかったせいで挙動不審になってしまった。


「この前のシフォンケーキ・・・、うまかった」


「あ、ありがとうございます!お口に合ったら良かったです。

ああ、でも甘いものが平気なら、もう少し甘味料入れたら良かったですね。すみません、知らなかったので」


石田さんが照れながらこの前渡したお菓子のお礼を言われ、私は驚きながらもその言葉に喜んだ。
口に合うかどうか、確かめる術も無かったので心配だったのだ。


「いや、あれはあれで美味かった。ぼうっとしてると思ったが、意外な特技だな」


「私ぼぅっとしてますか・・・!?」


「ああ・・・!いや、・・・すまない。私は言葉を選ぶのが下手なのだ」


「いえ、大丈夫ですよ。
それより、コーヒーが冷めてしまいますよ。とりあえずお茶を楽しみませんか?」


そう私が言うと、石田さんは無言で頷いてコーヒーに口を付けた。
どうやらコーヒーはブラック派らしい。
そうして次に石田さんはプリンにも手を付けた。
目の前で石田さんがプリンを食べている。
その光景は意外そのものだったが、思ったより違和感は無かった。


「プリン、お好きなのですか?」


「・・・、ああ。む、昔から」


石田さんがまた赤い顔で言いづらそうに答える。
彼は甘いものが好きな自分を恥じているようだ。


「そうなんですか。美味しいですよね!私も大好きです。家でも作るんですよ。
あ、もちろんこのこと、誰にも言いませんから!!今日ここで会ったのは私の心に収めておきます」


「感謝する」


私の言葉に、石田さんは照れながらそう一言言った。




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