佐助くんは聞き上手です。



「佐助ってさ、何でそんなに聞き上手なの?コツとかあるなら教えてよ」

普段、何気ない会話をしていてる時には気付かなかった、佐助の隠された心遣い。対人スキルが高いとは思っていたけれど、その凄さに改めて注意を払ってみれば、会話すればするほど驚くくらい心地良いことにまで気付いて、思わず直球で質問していた。

「え?いきなりどうしたの」

「いや、別に何って訳じゃないんだけどさ。佐助と話してると、何か凄い落ち着くというか、悩みを言いやすいというか・・・」

今日もいつものように佐助の手作り夕食を食べながら、そんな会話を始めた。佐助は、里芋の煮っ転がしを綺麗に箸で挟んで、口に運んでモグモグしながら少し考える素振りを見せる。咀嚼を終え、ごくりと飲みこんでから私の言葉に答えた。

「別に何か気にしてることなんて無いよ?普通に話してるだけ」

「えー、自然に出来てるってこと?」

「まぁ、そういう表現も出来るかもね。って、やっぱりどうしたんだよ。今日仕事、上手くいかなかった?」

佐助は少し眉を寄せて心配げに聞いてくる。それに首を横に振って否定した。

「そうじゃないんだけど・・・。私って話辛い人間なんだろうなって思って。私、自分の意見は結構言っちゃう方だし、言葉で価値観曝け出し合うのも臆さないし。でもそれって逆に主張するのは得意だけど、聞く方は実は苦手かもって思ったの。あと相手の意見を尊重することも。そう言うのって雰囲気に出るでしょ?」

「ふーん?俺様は特に感じないけど」

「本当?私ね、今日上司に言われちゃったんだよね。『君と話したことが無い人間は、君がツンケンしているように見える』って。雑談の中の何気ない一言だったけどさ、それって私が持っている雰囲気が人好きしないものだ、って言われてるのと同じでしょ?」

「それは酷い物言いだよね。俺様から見る叶ちゃんは、ビシッと自分ってもんを持ってて、でもたまに弱いとこもあって。かーわいい人だけどね!って、俺様の話は良いのか」

佐助はそう言いながら器用にウィンクしてみせる。可愛いな、と感じてしまう私は相当佐助にやられているらしい。こんなこと違う男がやったらひっぱたくか呆れるか吐くか。とりあえず確かなことは、佐助だから許せる行為だ。何よりやたら似合ってて、嫌みじゃないのに感心する。

「佐助の意見はまた違った意味で色々色眼鏡が掛かってそうだよね・・・。ま、佐助は身内票みたいなものだからさておき、これまでね、話辛いと思われてる、色眼鏡で見られやすいってのは何となく感じてはいたのよ。何か勝手なイメージ付くこと多かったし。でも、まさか初対面の初っ端からってさ!私の人となりを見てもらう前からそんな風に差別されてたなんて知って・・・、正直納得いかない」

「まぁね、人間は全ての人が平等なんかじゃないよね。何故だか人が寄って行く人、そうじゃない人が居る。それに加えて人間が関わるのだからそれぞれ偏見を持ってる。偏見は言い過ぎかな?言い換えるなら・・・そう、物差し、かな」

「物差し?」

「うん、価値観とも言うかな。それで判断するからさ。でも大丈夫。ちゃんといるよ、アンタのこときちんと見てくれる人は。誰もが自分の勝手な思い込みや、噂、憶測だけで人を判断しない。それにそんな自分の物差しに囚われている奴なんて、どうでも良いだろ?人生の長さは決まってるんだ。アンタにとって本当に付き合う価値のある人間と一緒に過ごせることが大事なんだと思うぜ?」

「うん・・・」

私は佐助の言葉に納得して頷いた。その通り。佐助の言うとおりだ。でも・・・、と思う。

「ま、こんなことはアンタも分かっているよな。実際そうしてるし」

目を上げると佐助が眉を下げて微笑んでいた。「はい、あーん」と言って私の口の中にも里芋の煮っ転がしを放り込んだ。優しい甘みのある沁み込んだ味と、ほくほくの食感が美味しい。

「意思は強いくせに、他人には弱いんだから」

佐助には私の本当の気持ちがバレているようだ。それでも強がって何でもない振りをして口の中の芋を頬張る。もぐもぐと、それだけに集中しようとするけど、悔しさが込み上げてちょっとだけ泣きそうになった。

「私、何でそんなに人に拒絶されやすいんだろ?」

ゴクンと飲みこんでから、思いを口にした。言葉にすることは、思った以上に痛いことだった。

「俺様はね、そんなことは考えても仕方ないと思うんだ」

驚いた。私の疑問に返された佐助の言葉は、思ってもみないものだった。少し首を傾げると、佐助が言葉を続けた。

「人の価値観やその人が持つものは簡単には変えられない。それが個々に悪いものじゃないのに、共鳴すると悪い結果をもたらす場合なんてどうしようもないと思う。俺様が言うと何だか嘘くさくなっちまうんだけど・・・、きっと万人受けしないってのはアンタが生まれ持った宿命なんだと思う。でも、そのかわり数は少ないかもしれないけど、アンタにはすごく大事な人が居るだろ?アンタを理解して、長く傍に居てくれる、本物の人間関係」

「・・・・・・それって、佐助、とか?」

「そう、俺様!」

私がふっと笑って答えると、佐助が悪戯っぽくそう言った。

「そうだね。数より質よね」

「俺様は万人に好かれるより、深い繋がりを持てる関係を探す方が難しいと思うし、そんな存在のが大事だけどね。アンタもそう言う考え方のはずなのに、どうしたの?」

「うん、どうしたんだろ?」

どうした、と聞かれて自分でも分からず弱った。人の何気ない無意識の悪意にちょっと疲れたのかもしれない。

「多分、叶ちゃんが思ってるほどアンタを嫌だと感じている人、居ないと思うけど?アンタって、人間本来の嫌な部分が見えすぎちゃうんだな」

「鈍い私が?」

「それも無意識なんだよ。だから感知しないという選択肢が選べない。器用に何でもこなす癖に、本当自分のことは不器用だねぇ」

佐助が空いたグラスに気付いてお茶を注いでくれる。それを一口飲んだ。

「佐助は・・・佐助はどうしてそんなにうまく人と付き合っていけるの?」

「俺様?俺様は、付き合ってないから」

佐助は食べていたごはんを飲みこんでから、さらっとそう答えた。またしても佐助の言葉に驚く。

「だって佐助、もうこの辺にすごく馴染んでるし・・・」

「うん、そう見せてるから。そう言うのは得意なの。得意って言うか・・・職業病?こう言ったらなんだけどさ・・・、表面上の親しみやすさなんてすぐにどうこうできるんだよ。笑顔浮かべて、人懐こくして、相手を否定しなきゃ良い」

でも、と佐助の言葉は続いた。じっと佐助が私を見つめる。

「もっと深くまで踏み込むなら、こんなんじゃダメだけどね。もっと信頼し合って・・・って、これまた俺様が言うと何でこんな嘘くさくなるんだろ?」

「おかしいなー」なんて言いながら、佐助は苦笑いを浮かべる。

「俺様は基本、人を信用することが出来ないから。何か裏があるんじゃないかって、無意識に探っちゃうんだよね」

相変わらず表情は冗談めかしたものだったが、佐助の言葉はずしりと重かった。その言葉の裏に、佐助の生きてきた道があるのだろう。

「正直、何で私が佐助の信頼を勝ち得たのか、未だに不思議だわ」

「あは、そんなこと無いよ。アンタは最初から真っ直ぐだったから。だから疑り深い俺様が信頼できた。そしたらさぁ、うっかり心まで奪われちゃった!」

「もー、真面目な話してたのに」

佐助の茶化すような言葉に頬を膨らませた。でも、そろそろ美味しいごはんを味わうために終わっても良いかもしれない。佐助のタイミングの良さは本当に感心だ。それを伝授されたい。

「ねぇ、叶ちゃん。俺様はどんなアンタでも大好きだよ」

「・・・・・・っ!全く、いきなりぶっ込んでくるよね」

しんみりと自分の内側に目を向けていたところに、唐突にもたらされる愛の告白。甘い言葉が私に沁み込む。

「えへへー、だって好きなんだもん。叶ちゃんだから俺様は全面的にアンタを支持するんだよ。例え相手がどんな聖人君子でも」

「どうすんの、私が間違ってたら」

「別に?それにどんな聖人君子でも、所詮人間だろ?完璧なんてあり得ない」

佐助の判断基準に疑問は持つものの、そう言われて嬉しくないはずは無い。佐助くらい極端な方が安心できる。信じるって、私も簡単には出来ない人間だから。だから根っこで似た者同士の佐助を、疑わないでいられるのかもしれない。佐助は、絶対、敵にならない、と。佐助の言葉を最後に、この話題の会話は此処で打ち切りにして、何気ない雑談やテレビから流れてくる下らなさが何とも楽しい番組を肴に、食事を楽しむことにした。


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