心配性な佐助さん〜



春の風が、強く吹いていた。今日はここ最近の中ではちょっと冬に戻ったような、そんな寒い日だった。

「ねぇ、叶ちゃん。本当に今日も行くの?」

「当たり前でしょ〜。毎日続けることに意義があるのよ」

「や、それはそうだけど・・・。アンタ風邪引きやすいんだから、こんな風が強くて寒い日はお休みしたら良いと思うよ?」

「大丈夫だって!本当に佐助は心配性だなぁ。この完璧な装備を見てよ。冬用のコートに、マフラー。ヒートテックの下着も着たし、喉の保護のためにハイネックのニットにした。デニムパンツだし、分厚い靴下まで履いてさ。これ以上は出来ないってくらいの重装備だよ?」

「う〜ん・・・」

「じゃ、私行くからね。佐助も一緒に行くなら用意、ささっとしてよ」

顎に手を添えて悩む佐助も、私の言葉を聞いて、ハァとため息をひとつ吐いた。そして眉を下げて苦笑を浮かべる。

「じゃあ、俺様がもう帰るよって決めたら従ってよ?じゃないと、熱出してもお世話してあげないんだからね?」

「うん、約束する。だから、ほら、行こう?」

そう言ってじっと佐助を見ると、くしゃっと頭を撫でられた。

「ちょっと待ってて。上着取ってくる」

そう言って佐助は部屋に上着を取りに行った。いつだって佐助は私の希望を第一に考えてくれる。本当にダメなことは譲らないけれど、それまでは譲歩してくれるのだ。ああ、何て良い男なんだろうと顔が綻んでしまう。私を絶妙な匙加減で甘やかしたり、厳しくしたりする。

「お待たせ〜。じゃあ、行こうか?」

「うん!」

佐助の差し出す手に手を重ねると、にこっと笑いかけられる。私も笑い返して、一緒に玄関を出た。しっかりと施錠して、階段を使って地上に降り、さてどのコースにするかと悩んだ。

「ね、どのコースで行こうか?」

「どのくらい歩くつもりなの?」

「うーん、2キロは歩きたいかな〜」

「なら公園の方が良いんじゃない?帰りに一緒に買い物もしよ?」

「うん、じゃ、こっちね」

佐助の手を引いて道を先導しようとすると、佐助が私を引き留める。不思議に思って振り返ると、佐助が「こっち」と違う道を示した。

「こっちの道の方が車が来ないから」

「こっちから公園行けたんだ〜」

「あれ?知らなかったの?」

「うん、だっていつも車だもん。車だとその道は走りにくいから」

「あー、そうだね。なら良いもの見れるよ♪何かはお楽しみねっ」

きれいに片目を瞑ってみせて、悪戯っぽい表情を浮かべて佐助は口元を笑ませた。私は「気になる」を連発しながらそれでも教えてくれない佐助に焦れて、仕方なくさっさとその場所へと向かうことにした。佐助の示した道は確かに交通量が少なく、穏やかな空気で包まれていた。だが、時折吹き抜ける風が強くて、上着の合せ目をぎゅっと空いている方の手で絞める。

「叶ちゃん寒い?」

「うう〜、寒い。けど、大丈夫!」

「無理はしないでよ?俺様知ってるんだよ。アンタが今も調子崩してること」

「・・・っ!?」

「気付いてないとでも思った?お馬鹿さん、俺様に隠し事なんて出来ないよ?」

「う〜、どうして知ってるの?」

あまりの驚きに誤魔化すという選択肢は微塵も思い浮かばなかった。証拠は何も残して無いはずだったのに。

「んふー、簡単だよ。あの体温計、前回測った記録が残るんだよ。その数値を見たの」

「ええ〜、そうなの?知らなかった!」

ことのからくりの結果を聞けば簡単なことだったけれど、そんなとこから簡単にバレるとは思いも寄らなかった。完全な手落ちだ。

「見たとこそこまで調子悪くなさそうだから歩くの許可したけど、辛くなったらすぐ連れて帰るからね」

「はぁーい・・・。でもさ、歩いて体力つけないといけないんだよ。体力無いから熱も出ると思うの」

「それはそうかもしれないけど、それで身体がどうかなっちゃったらダメでしょ」

「ん・・・、分かってる・・・。でも本当に辛くは無いの。だから歩きたい」

「うん・・・、分かってる。ちゃんと早めに言ってくれれば良いから。ほら、見せたい場所まであとちょっとだから行こ?」

「佐助、ありがと」

佐助の困ったような仕方ないなって、私を甘やかす表情がものすごく好きだなって、見る度に思う。優しくて、でも温かくて。繋いでる手をポケットに入れられて、さっきより二人の距離を詰めて歩いた。触れ合う腕から、佐助の体温が伝わってくるような気がしていた。

「ほら、着いたよ!あれを見せたかったの」

佐助が私の目線に合わせるように少し屈んで、顔を寄せて目の先を指差す。指の先を辿って見た景色は、一面のピンクや白の花。桜にはまだ早いこの季節を彩る、梅の花がたくさん咲いている一画だった。

「うわ・・・、きれ〜・・・」

「んふー、叶ちゃん気に入った?」

「うん、すごい。私ここにもう6年住んでるけど、初めて見た。何か、匂いも良いね。昔はこういう匂い、よく嗅いでたの思い出した!」

「良かった、気に入ってもらえて」

梅の花の前で歩みを緩めて、じっくりと花を見ることにした。木ごとに花の色が違って、それがコントラストを作り出して余計に美しさを引き立たしている。一通り花を見てから、ウォーキングの続きに戻る。梅の花畑を越えて、公園内をぐるっと回り帰途に就く。これで半分だった。

「あと半分だね!買い物は何をするの?」

「んー、明日のアンタのパンと、足りないもの」

「明日の朝は、ハムドッグが食べたいなー」

「ん、分かった。ハムはあるから、あとは挟むきゅうりとかかな。それと〜」

佐助と雑談していると、帰りはあっという間に戻って来たらしく、近所の食料品店に入って、カゴの中に次々必要なものだけを入れていく。それをレジに持って行ってお金を支払った。もちろんそれは佐助が中心だ。財布も佐助に預けてある。

「他には欲しいもんとか無いの?」

「う〜ん、特に無いかな?」

「じゃ、もう帰ろうか。身体が随分冷えてるのに、頬が赤くなってる。もしかしたら熱が上がってるかも」

「う・・・はーい・・・」

私は佐助との先の約束を守るため、特に抵抗せずに佐助の言葉に従う。佐助は手を繋ぎ直して、空いてる方の手で荷物を全て持ってくれた。

「佐助、重くない?」

「大丈夫だよ。ありがと、気遣ってくれて」

「んーん、私はいつも助けてもらってるからさ」

にへらと笑って見せると、佐助が素早く顔を寄せて、頬にキスをした。

「さ・・・っ!ここ、お店っっ」

「へへ、叶ちゃんが可愛かったから、つい」

そう言って舌を出す佐助が可愛くて、怒りも恥じらいも一気に吹き飛んでしまう。

「も・・・バカ・・・」

「うん」

にこにこしている佐助の腕にくっ付いて、お店を後にして短い部屋までの距離を早足で通り過ぎた。





―――あー、何かぼーっとする。

―――えーっ、やっぱり熱上がったんじゃないの?ほら、さっさと寝て!

―――そんなに焦らなくっても大丈夫だよ〜。

―――ダメダメ、ほら、服もコレに着替えて?フラフラとかしない?

―――ん、実はちょっとするかも・・・

―――俺様が良いって言うまで、今度こそ寝ててよ!







佐助さんの前で熱を出したい。不謹慎にもそう思った私を許して(笑)そんな妄想で作りあがりやした〜。

歩いている間中ずっとコレのこと考えてて、ニヤニヤしながら歩いちゃった。不審者じゃね、私(-_-;)いつか通報されても文句は言えない顔してると思います。でも良いの、幸せだもんね(笑)


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