占い 51点



私は、足音高くして自宅マンションのエントランスへと踏み入れた。エレベーターが1階に降りてくるのを、まだかまだかとイライラしながら待つ。やっと降りてきたエレベーターに乗り込んで、自室のある階に降り立つと、真っ直ぐ部屋の前へと向かう。

「おかえり、叶ちゃん」

と、玄関まであと3歩と言うところで、玄関扉が開き、愛しい男が顔を覗かせた。

「ただいま、佐助」

穏やかな笑顔で迎えられるだけで、最高潮に達していた溜飲が下がる。この男だけには一生叶わない、そしてこの男以上に私を理解し、愛してくれる男も居ない。そう断言できる相手の待つ部屋へ、私は入った。

「佐助ぇ〜、ただいま!聞いてー!!」

玄関をくぐり、履いていたヒールを脱ぐと、被っていた仮面を思い切り取り去った。会社では決して見せない私の素顔。

「おかえり!うんうん、何でも聞いてあげるよ〜」

私が両手を広げて飛び込んで行くと、佐助は私の身体を受け止めて、よしよしと頭を撫でてくれる。それに思いっきり甘えて、ぐすんと鼻を鳴らした。

「話はちゃんと聞くからさ、いつまでも仕事着着ていたら落ち着かないだろ?手洗って着替えなよ」

「うん、出来たらお酒飲みながら話したい」

「はいよ、なら用意するから、行っておいで」

そう言われて後ろ髪引かれながら身体を離すと、洗面所で手を洗った。ついでにうがい。これをサボるとすぐに風邪を引く体質だから、しっかりとうがい薬まで使って洗浄する。それを終えると一旦寝室へ向かい、着ていたスーツを脱いだ。代わりにハーフパンツタイプのフリルの付いたルームウェアを着る。可愛いながら、ゆったりとしたデザインなので、断然寛げる。着替えを済ますと、佐助の待つLDKへと向かった。続く扉を開けた途端、良い匂いが漂ってきた。今日は私の好きなデミグラスソースのオムライスらしい。

「叶ちゃん、席について待っていて。もう出来上がるから」

こちらを一切見ていないのに、佐助はタイミング良く声を掛けてくる。もう2年近く一緒に居るのにお迎えのタイミングの良さといい、今回のような場合といい、ただただ感心するばかりだ。戦国の人は、皆がこんな風なのだろうか?

「俺様、忍隊の長だった男だよ?特別敏いんだよ。まぁ、名のある人たちは皆それなりに敏いけどね」

ダイニングテーブルの前に移動する間に、いつの間にか両手にオムライスが盛り付けてあるお皿を載せた佐助が、背後に立っていた。何という早業。というか、勝手に心を読まないで欲しい。いつもそうなんだから。そう思って顔を顰めながら後ろを振り向くと、佐助は「ごめんごめん」と眉を下げる。ダイニングテーブルの上には、既にサラダとスープも用意されており、スープからはかぼちゃの甘い匂いのする湯気が立っていた。本日のスープはパンプキンスープだ。その傍らには、グラスと冷えたチューハイの缶が置いてある。

「さすが佐助!本当、良い奥さんになるよね。完璧だよね」

「いやー・・・、何て言うか喜びづらい褒め言葉だよね・・・」

佐助は苦笑いをしながらそれぞれの席の前にオムライスの皿を置くと、私のために椅子を引いて待つ。

「お姫様、どうぞ?」

「んふふ、ありがと」

佐助は気障な振る舞いで私に席を勧める。他の男がこんなことをしたら、鼻で笑ってやるのに、佐助だと何故だか似合っているだけに許してしまう。佐助のエスコートで席につくと、向かいに佐助も着席して、私のグラスに缶からお酒を注いでくれた。何から何まで至れり尽くせり。やっぱり佐助の気遣いは、完璧な奥さんのそれだ。この世の男が女に求める、最上級レベルのそれに、私は毎日甘えているのだから贅沢な話だろう。

「はい、どーぞ」

「ありがと。佐助も一緒に飲も?今日は一緒に酔っ払ってもらうんだから!」

「良いよー。なら俺様の分、持ってくるよ」

「あ、良いよ良いよ。私がやってあげる」

そう言って席を立ち、冷蔵庫から佐助の分の缶チューハイと棚からグラスを持ってくる。席に戻ってグラスに中身を注いで渡すと、佐助は嬉しそうに「ありがと!」と受け取った。小さなことだが、こんな時胸がきゅんとしてしまう私は、年甲斐も無く乙女だ。

「ではでは、乾杯」

カツンと少しだけグラスをぶつけて、中身をきゅっと煽る。冷たい液体が喉を通り、その後にじわりと熱が身体に広がる。お酒にあまり強くない私は、すぐにアルコールが回り始めるのだ。最初の一口の後は、空きっ腹にアルコールを入れると悪酔いの元なので、まずはサラダからいただくことにした。

「佐助、いただきます」

「はーい、たくさん食べてね!俺様も、いただきまーす」

お互い手を合わせて早速食事を楽しむ。一口二口サラダを含んだくらいで、私は今日の出来事を語り出した。

「佐助、今日の話聞いてくれる?」

「もちろん。さっき怒っていた話?」

「うん、怒っていたって言うか、納得いかないわ〜って感じかな」

私は今日の出来事を思い出しながら、持っていたフォークをプチトマトに突き刺した。

「今日私、占い51点だったのよ」

「叶ちゃんが携帯で毎日チェックしてるっていう、どっかのサイトの占い?」

「そう、その結果が51点だったの。これはね、毎日見てるから言えるんだけど、過去最悪の点数よ。50点より下は見たことが無かったし、とすれば、私の今日の運勢は相当悪いってこと」

「ふん、確かにそうだね。でも、数字だけで見るなら、半分ってことだろ?」

「そう!まさにその半分な出来事が起こったわけよ!!」

事の始まりは朝の出社の時からだ。朝一番に会社の自分のデスクに着くなり、一緒のチームの後輩に泣き付かれた。後輩曰く、今日の朝の会議に必要なデータの入ったUSBメモリーを自宅に忘れて来てしまったというのだ。昨夜は今日の会議のため、後輩は自宅に企画書を持ち帰り仕上げたのだろう。私はいきなりのトラブルに一瞬怯むも、そのデータを昨夜私にメールで送ってくれているのを思いだし、メールから取り出す。

「もう、本当に焦ったわよ!でも運が良いことにメールしてたから、何とかなったわ。時間は取られたけどね。せっかく少し早く着いたから、コーヒーブレイクしようと思ったのに」

「それは災難だったね。でも良かったじゃないさ、何とかなったんだから」

「それはそうなの、問題は起こったけど、乗り越えたわけ。でもね、やっぱり51点は51点だったのよ・・・」

そう言うと私はその後の出来事続きを話し出した。


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