実は抱っこされるのが好きです(`・ω・)キリッ



「佐助〜、抱っこして」

私がそう言って隣に座っている佐助にすり寄ると、佐助は珍しいものを見たかのような顔をして、それでも黙って私を引き寄せた。

「もっともっと・・・もっと抱きしめてよ」

「今日は甘えん坊さんだねぇ。どうしたの?」

「・・・こんな私は嫌だ?」

嫌だ、なんて答えられたら傷つく癖に、私は聞いてしまう。身体に腕を巻き付けて、すりっと触れている佐助の身体に頬を寄せると、求めていた体温を感じる。少しだけホッと息を吐いた。

「嫌なわけ無いだろ。何かあったのかなって思っただけだよ?」

「あったような、無いような・・・」

佐助の大きくて優しい手が、そっと頭を撫でてくれる。目を閉じてその感覚に酔いしれる。

「要するにあったんだ?」

「・・・特別何かあったわけじゃないんだって。私が、勝手に、傷付いたーって思ってるだけ」

「そっか。今、調子悪いもんな」

「うん、そういうこと。ホント嫌になっちゃうよ。すっごい後ろ向きだからさ」

「アンタって見た目と中身にギャップがあり過ぎだよなー。こんな繊細だとは」

「あー、失礼だな!私はどこからどう見ても、思わず守ってあげたくなるような女でしょ」

「ん!?あは・・・俺様はどっちかってーとガンガン自分で道を切り拓いていくタイプかと・・・。まぁ、今はそうは思えないけど。俺様の可愛い可愛いお姫様だよー」

「何かムカつく。佐助めっ!!」

「うわっ、ごひぇんってば!!」

私はがばりと身を起こし、佐助の両頬を抓んで横に引いた。佐助はギブアップを伝えるタップを私の背にするものの、完全に無視した。ぐいぐいと縦にも動かして、変顔を作る。

「ぶふ・・・、佐助の顔、変」

「ひゃめて〜!おれひゃまのひゃっこいいひゃおがぁ!!」

「何言ってるか分かんない」

込み上げる笑いを押さえることもせず、声を出して笑う。ふと気付くと、あの暗い気持ちが鳴りを潜めていた。

「どっひゃの〜?」

「あっはっは、何でも無いよ。佐助、笑いをありがと」

「ていひょうふるき、ないってばぁ〜!!もうおひょった!!」

佐助はそう言うと私のわき腹を擽り始めた。

「あひゃひゃひゃ!ちょ、あはは、止めてって、ば!!あははははは」

くすぐったさに負けて、思わず抓んでいた頬から手を離した。それでも続く擽りに、身を捩って逃れようとするものの、佐助が巧みに逃れられないように退路を上手く遮ってくる。

「仕返しだよ!俺様の恥辱分、思い知ってもらうからな〜」

「もぅ・・・っ!もぅ、限界!・・・だっ、てばぁ〜っ!!」

止まらない笑いに息苦しさを感じ、佐助の胸を突っ張った手で押す。やっと止まった佐助の攻撃に、私は笑い過ぎで追いつかない酸素を必死で摂取して、目の端に溜まった涙を手の甲で拭う。

「佐助・・・の、バッ・・・カ・・・!!」

「えへへ、ごめーんね?」

少し傾けられたその顔がすごく優しく笑んでいて、思わずもう一回仕返しに頭ぐりぐりの刑を考えていたのに断念した。それに、思い切り笑ったせいで、マイナス思考そのものから解放され、心の中はカラッとしている。

「もぅ、怒れないじゃん」

ピンと佐助のおでこを弾くと、佐助は「えへへ」と笑った。そして私の身体に腕を回すと、ギュッと抱き寄せた。

「んふー、大好き!叶ちゃんっ」

埋めるように私の身体に密着する佐助のオレンジ色の頭を、私はそっと両の手で包むようにして、柔らかな髪の中に鼻を埋める。チュッと唇を尖らせてキスをひとつして。

「佐助・・・、私の傍に居てくれて、本当にありがとう」

何度ありがとうという言葉を伝えても足りないこの溢れる気持ちに、どんな言葉を付けたら相応しいのか。好きでも、大好きでも、愛してるでも、もはや足りない。佐助をいつか失うことになったら、それがたとえ寿命だとしても、私は耐えられないと言えるほど、佐助の存在が私の内側で大きくなっている。

「これからも・・・ずっと・・・」

だから恐くて言葉に出来ない。言葉にした途端に、それは姿を失っていくような気がするから。出会った瞬間からカウントダウンが始まっているこの運命に、どうしたら逆らえるのだろうか?

「居るよ。アンタとずっと一緒に、俺様は居るから」

私が言い淀んだ言葉を、佐助はサラリと掬い取った。私はその言葉にホッと息を吐いて、そして縋るように頭を腕の中に閉じ込めた。

「こんなところが一番甘えてるかも」

自分の言えないことを代弁してもらうなんて、幼い子どものようだと感じる。とても情けないと思っているくせに、酷く心地良い佐助の過保護に、つい頼ってしまう。

「俺様はまだまだ甘えて貰い足りないけど?」

「そんなに甘やかすと、私、ダメ人間になっちゃうんだから」

「なれば良いのに。そしたらアンタには俺様しか居なくなるだろ?」

「そんな私で良いって言うの?」

「独占出来るなら、どんなアンタでも良いよ」

「ばーか」

「ひどっ」

目と目と合わせて、弾けるように同時に噴出した。くすくすと笑い合って、半分冗談で半分本気の会話を笑いに昇華した。佐助の本来の暗く、深い独占欲は理解しているつもりだ。懐が大きいくせに、こんな所だけ私にそっくりだ。とても重たい想い。それを心地良いと思える私は、他人から見たら病気なんだろうか?

「ねぇ、もう少し抱っこしててね?」

「もちろん、アンタが望むままに」

今夜は佐助の腕の中で、一緒に録画してある映画でも観よう。そう思った途端、それは無理そうだと思い直した。だって佐助だもんね。


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