≪お風呂≫※微破廉恥、かも。



家にくたくたになって帰宅しても、以前は真っ暗で無機質で心がすぐには休まらなかった。今は、玄関を開けた瞬間、部屋に明かりが灯っていて、美味しそうなごはんの匂いと共に笑顔で出迎えてくれる人が居る。

「おかえりなさい、叶ちゃん!」

「佐助、ただいまー」

履いていたヒールを玄関に乱雑に脱ぎ棄てると、上着を脱ぎながらソファへと直行した。ぼすんと倒れるようにソファに寝そべれば、すぐにでも寝れそうなくらい身体が疲れていた。

「うー、ダルイ。もう動きたくない〜」

「ほら、一回寝っ転がっちゃうと起きるのが大変だぜ?先に手洗って着替えてきなよ」

佐助が私後ろからついて歩き、脱ぎ散らかした靴を揃え、ソファの背に脱ぎ捨てて掛けておいた上着を、シワにならないようにハンガーに掛けてくれる。

「佐助、うーるーさーいー」

私は駄々っ子のようにソファの上で両手をバタバタさせて座面を叩く。

「このまま寝ちゃいたい・・・」

「ダメだって。風邪引いちまう。それにごはん食べてからだよ。早くしないと、俺様が服、脱がしちゃうからね?」

「佐助・・・、変態」

「あはー、今更何言ってるの。もう散々アンタの身体は拝ませてもらってるし、なんならどこに何があるか手に取るように・・・あだぁっ!ちょっと、叶ちゃん!?いったいんだけど!!」

「ふん」

佐助が要らないことを口走りそうになった途端、足の近くに立っていたのを良いことに脛を思い切り蹴とばした。佐助は私の行為に文句を言いつつも、蹴られた脛を撫でている。

「仕方ないなぁ。今日は俺様が特別なお風呂を用意してあげるから、頑張って起きてごはん食べて?」

「・・・それ、どんなお風呂?」

私は佐助の提案に心惹かれて、起きようか葛藤し始める。というか、化粧を落としたり、着替えたりと、結局やらなくちゃいけないことは分かっていて。やる気の起爆剤になればと話に食いついてみた。

「んー、そうだねぇ。疲れが取れるようなお風呂だよ。詳細は入るまで内緒!」

「疲れかぁ・・・。仕方ない、頑張るかな」

私は緩慢な動きで身体を起こし、まずは手を洗いに洗面所に向かう。

「ん、えらい、えらい」

きっと酷い顔をしていたんだろう。佐助が頭を撫で撫でして、理由も聞かずに慰めてくれる。佐助に見送られながら洗面所で手を洗い、ついでにうがいまでしてリビングに戻ってくると、調度ダイニングテーブルに食事が並べられたところだった。

「叶ちゃん、席着いてー。今日はごはんの時何飲む?」

「んー、缶チューハイ。何味があったっけ?」

「えっとね、レモンと桃とグレープフルーツと・・・」

「佐助、レモンが良い」

アルコールを保管している棚を覗いている佐助にそう言うと、「はいよー」と軽い返事が返ってきた。ダイニングテーブルに着くと、目の前にコップと缶チューハイが置かれる。この至れり尽くせりが最近当たり前になって来て、自分で動くことが無くなってきているのを何となく自覚しつつも、つい佐助に甘えてしまう。

「ありがとー。佐助も一緒に飲もうよ」

「うん。じゃぁ、俺様もいただきます」

佐助は食器棚からコップをもう一つ取ってテーブルに置く。それに私はチューハイを注ぎ、互いのグラスを鳴らしながら乾杯をして、一口楽しんだ。

「おいしー。仕事あがりの一杯、最高」

「叶ちゃん、何だかアンタにおっさんが透けて見えるんだけど〜」

「佐助・・・、締められたいの?」

失礼なことを口走る佐助をひと睨みしながら、目の前に並ぶ料理に舌鼓を打った。佐助の料理はいつも美味しく、最近ではすっかりこちらの世界の料理のレパートリーも増え、下手なお店に行くより美味しい。見た目も美しい料理を食べられることもあり、外食もめっきり減った。

「佐助ってさー、毎日毎日朝から晩まで家事してるじゃない?毎日毎日ごはんも献立違うし、お休みも無いし、厭きない?私が言うのも何だけどさ、私のお世話も大変じゃん」

「くふ、本当自分で、とか。でも、俺様アンタの世話は好きでやってんの。だから苦にも厭にもならないよ。家事もね、叶ちゃんが働いているって思うと、俄然やる気が出るね!帰って来たアンタを、いかに癒してあげられるか、俺様それに燃えてるの」

「佐助・・・。あんた、良いお嫁さんになるよ」

「うんうん・・・って、えええ!俺様なってもお婿さんでしょ!!」

「いや、嫁だろ、そこまでやるのは。しかしねー、忍頭の猿飛佐助が、今は立派な主夫になって・・・」

「俺様のこんなふにゃふにゃな顔、皆には見せられないわ」

そう言ってにこにこ笑う佐助の顔に、ほっとしてしまった。やっぱり元の世界に帰って、やりたいことが佐助にはあるはずで。佐助がこの世界に来て1年。未だ帰れない今を嘆いていないか、毎日それが気になる。本当は、佐助が今どう思っているのか聞いてみたくて仕方ないけれど、ぶつかるのは恐いとも感じる。もしも帰りたい、と言われてしまったら・・・。私は何て答えたら良いだろう。佐助ともう、こんなに離れがたいのに。佐助も同じ気持ちで居てくれるのだろうか?食事を終えると、軽くすすいだ使ったお皿を食洗器にセットし終えた佐助が、ソファで寛ぐ私をお風呂へと促した。

「叶ちゃん、お待たせ!俺様特製バスだよ〜」

「んで、結局どんなお風呂なわけ?」

「んふふー、知りたければ早く入って!あ、服脱ぐの手伝ってあげようか?」

「だから脱ぐのまで手伝おうとするな、この変態オカン!なら、さっそく入ってみますか〜」

指をわきわきさせながら服を脱がそうとする佐助を押しやって、脱衣場で服から解放されると、バスルームの扉を開けた。その瞬間立ち上る、私の好きな匂い。

「わ・・・、すごい良い匂い」

「でしょー」

いつの間にか佐助が背後に立っていて、にこにこ笑っている。

「電気、消して入って?」

そう言って佐助はバスルームの電気のスイッチを消し、脱衣場の電気も消してしまった。なのにバスルームはほの明るい。それは、湯船に浮かぶいくつかのアロマキャンドルが点いており、他にも何本かのキャンドルが灯りを灯していた。

「疲れた目には、自然の明るさの方が良いんだって。好きな匂いには、心を溶かす効果もあるらしいし。ゆっくり浸かっておいでよ」

「佐助、ありがとう」

優しく頬を撫でられ、バスルームの中に送られる。私は佐助の心遣いに感謝して、身体と頭をさっさと洗ってしまって、ゆっくりと湯船に浸かった。ゆらゆらと揺れる小さな炎が、不思議と綺麗で見ていて飽きない。浴槽の中で足を伸ばし、背を壁に預けてゆったりと寛いだ。


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