Happy Birthday!!



よく眠っている佐助を見て、こんな顔も見られるようになったんだと嬉しく思う。気配に敏感な佐助は、私が目を覚ますと、例え眠ったばかりでもパチッと目を覚ます。身じろぎひとつで目を覚ましてしまうからだ。だから、私はずっと佐助の寝顔を見たことが無かった。それは、佐助と関係を持った後も、長い間変わらなかった。多分目を覚ましてしまうのは、私が佐助の命を脅かす存在だ、と疑っているとかいうことではなく、習慣というか、もう本能のレベルのことなのだろう。佐助自身にもどうしようも無く身体に染みついたもの。忍として生きてきた証みたいなものだと分かっていた。でも、それすらも超えたのが今の状態。そっと頬に掛かった佐助の長い前髪を払うと、うっすら佐助が目を開いた。

「あ、ごめん。起こしちゃったか」

「あれ・・・、俺様気付かなかった?いつから起きてたの?」

「ん?ついさっき。そんな慌てるほど時間経ってないよ」

「うはー、どうしちゃったの、俺様」

驚く佐助を私はじっと見つめた。

「何?」

んーっとおでこにキスをされ、身体を佐助の方へと抱き寄せられる。

「もう少し見たかったなって。残念」

「何を?」

「佐助の寝顔」

「えー、俺様は見られたくないよ」

「でも佐助だって見たいと思わない?好きな人の寝顔」

「そりゃ見たいよ。でも、俺様が見られるのはイヤ」

「うわー、佐助、ワガママ〜」

私はそう言って拗ねた。私にも見られたくないとは、どういうことだ。

「無防備な変な顔とか、アンタには見られたくない。だっていつでも愛しいアンタにはカッコ付けてたいだろ?」

「そんなん私だって涎垂らしてる姿とか見られたくないよ」

「えぇ〜、可愛いのに」

佐助はそう言って思い出すかのように少し遠い目をする。余分なことは思い出さなくて大丈夫です。私は佐助が回想するのを阻止するために鼻を抓む。強めに。

「ちょ、痛い痛い」

「余分なことするから」

フンと鼻を鳴らすと、指を離してやる。若干涙目になっているものの、自業自得ってことにしておいた。

「でも嬉しいな。佐助の寝顔見られるようになったなんて・・・」

「俺様も自分の変化に驚くけど・・・。うん、悪くないね」

そう言って浮かべる佐助の笑顔が、いつになく優しくて穏やかで、朝からドキドキと私の心臓が煩い。

「佐助、Happy birthday!」

「あ、今日だったか。そっか、あれから1年か」

「早かった?長かった?」

「ん・・・、両方かな。過ぎてみたらあっという間だった気がするけど、すごく濃い時間だった」

佐助は頭の下に腕を入れて、少し頭を高くして私との会話に向き合った。1年前の武器を突き付けてきた佐助と、目の前の佐助。私と佐助が一緒のベッドで過ごすような関係になるなんて、多分佐助が一番思いも寄らなかったんじゃないだろうか?

「確かに濃い1年だったね。すごく色々あったし。佐助は冷たかったし?」

「〜〜〜っ、ごめんってば」

佐助は私の言葉に焦った様子で謝る。そんな姿に噴出して、冗談だと伝える。

「気にしてないよ。だってきっとあの時期が無かったら今こうして深い信頼関係って築けなかったと思うもの」

「本当?」

「うん。佐助なら分かるでしょ?私が嘘を吐いているかいないか」

「そうだね。アンタは嘘を吐いてない」

私たちはどちらともなく微笑を浮かべ、こつんと額を合せる。

「あの半年間は、きっと準備期間だったんだよ。佐助が忍からただの男になるための」

「そうだね、俺様はアンタの前ではただの男だから。もしも・・・、もしもこの先、元の世界に帰れる日が来たとして、俺様忍に戻れるか心配。すっかり腑抜けちゃってる気がする」

「そう?佐助なら大丈夫そうだけどね・・・」

「大丈夫だよ、叶ちゃん」

「ん、何が?」

「アンタも一緒だ」

「・・・・・・」

「俺様が帰るなら、アンタも一緒じゃないと帰らない」

佐助は私の言葉に隠された思いを、さらりと掬い上げた。まだ、何も言っていないのに。佐助の長い指が、私の顔の横の髪を、一房掬う。

「私は、佐助の邪魔になるんじゃないかな?」

佐助の世界では何もできない私。自分の身すら守れないだろう。生活自体ままならず、お金だって稼ぐ術も無い。全てにおいて佐助の足枷にしかなれない。

「良いんだ。アンタは俺様の傍に居てくれるだけで。それ以外何にも要らないから」

「佐助・・・」

佐助が掬った髪をくんと軽く自分の方に引くのにつられて、私は顔を少し寄せると、そこに佐助が顔を寄せ、ちゅっと唇に口付ける。それは優しい甘いキス。それだけで心のさざ波が穏やかになる。

「一緒に来てくれるんだろ?」

「・・・うん、行く」

私は佐助の言葉に大きく頷いた。何もかもを捨てて行くことになるんだろうけれど、それでも構わないと思う。私の人生で一番大切なのは、佐助だから。

「これも仮の話だけど・・・」

「うん?」

佐助は少しだけ声を潜めて、言葉を続けた。口にしたらいけないような、口にしたくないような、そんな内容を話す雰囲気だ。私は次の言葉を待った。

「もしも元の世界には俺様しか帰れないなら・・・」

「うん・・・」

「俺様は此処に、アンタの傍で生きていっても良い?」

「・・・っ、うん、もちろんだよ」

「迷惑掛けるけど、」

「全然良いよ。むしろ、良いの?佐助は・・・」

「うん、良い。きっと大将や旦那は分かってくれるし、俺様が居なくても大丈夫って信じてる。何より、俺様がアンタの傍に居たいし」

「ありがとう」

「俺様こそありがと・・・、ずっと傍に居てね」

佐助がそう言ったところで、甘い雰囲気を一気にぶち壊すように目覚ましが鳴った。それに私も佐助も苦笑する。

「そろそろ起きて会社に行く用意しないとね」

「俺様も叶ちゃんのごはん用意しなきゃ。でも、その前に・・・」

佐助は私をいきなり抱き上げると、あっという間にお風呂場へと移動した。

「あは、鈍ってないわ」

「何でこんな無駄に才能使ってるの〜。と言うか、ものすっごくびっくりした!」

「ごめん、ごめん。さ、とりあえず一緒にシャワー浴びよ?」

「え?一人ずつで・・・」

「俺様も裸なのに追い出すって言うの!?」

「もー、分かったわよ。でも、エッチなことしたら追い出すから」

「えぇぇっ!そこに叶ちゃんが居るのに・・・」

ブツブツ言う佐助を置いてさっさと浴室内に入ると、佐助も後を追ってくる。扉が締められるのを確認して、シャワーノズルを捻ると、熱いお湯が降り注ぐ。

「佐助、今夜はお誕生日パーティーよ。ごはん、期待してるね!ケーキは買って帰るから」

「俺様のためにお祝いしてくれるの?うはー、嬉しっ!」

頭からお湯を浴びながらそう言うと、佐助は嬉しそうに声を上げた。そして私の身体を後ろから抱きしめて、口元を耳に寄せて私が大好きな声で囁いた。

「ありがと。今夜も期待してるね」

そして動かされる手で、胸の膨らみや中心を愛撫される。

「こら!つまみ食いは禁止!!」

「ぐはっ」

私は一瞬声に流されそうになるものの、仕事の文字が頭をチラつき、後ろの佐助を肘で打った。それがどうやら良いところに入ったらしく、佐助は苦しそうな声を上げる。

「叶ちゃ・・・、酷い・・・」

「また、今夜ね」

「―――!?うん!!」

現金なもので、私の鶴の一声で佐助は元気を取り戻したらしく、明るい声で返事が返って来た。

「会社に行くまでにもうそんなに時間無いから、急いで用意しなくちゃ〜!」

「よし、俺様が叶ちゃんの身体を洗ってあげるから、アンタは頭を・・・」

「良いから先に出て服とごはん用意して!!」

「はぁい・・・」

佐助は渋々と言った様子で浴室を出ていく。私はそれから慌ただしく朝の支度を済ませ、佐助の見送りを受けて会社へと向かった。





連載を始めようと決めた、1年前から決めていました。初めての誕生日にこのお話を書こうって。

思い通りかけて感無量です。来年は・・・ものすごく甘いお話を書けると良いな。


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