Happy Birthday!!



これが私たちの始まりだった。今思い起こしても、酷い始まりだ。隣でほとんど聞こえないくらいの寝息を立てて、眠っている佐助を見て、変わったと感じる。あの日から今日で1年。長かったはずなのに、思い出すとあっという間だった。この話にはまだ続きがある。続きなんて可愛いことを言っているどころじゃない話だ。この後2か月くらいは生活自体が大変だった。佐助は、やはり忍、そのものだったから。



「叶ちゃん、朝だよ」

「うぅん・・・、えっ!?・・・あぁ、そっか。・・・ってちょっと!!」

「ん?」

私が抗議するように声を上げるものの、佐助はとぼけた表情で首を傾げる。

異世界から飛ばされて来ちゃった猿飛佐助―――推定20歳代―――は、苦無っていう殺傷能力のある武器をいきなり突き付けてきたものの、話せば分かる?人間だったらしく、押し問答やらネットで調べた結果を見せたりして、現状把握をお互いにし合った。彼はゲームやらOVA、映画と多方面に渡りリリースされている作品の登場人物で、私の世界では存在するはずの無い人間だということ。どういうわけか、戦場で戦っている最中、光に飲みこまれて気付いたら私の家に居たということ。そして一番重要なのが、帰る方法が分からないということ。これには正直どうしたもんかと途方に暮れた。私は本当に一般的な人間で、神秘的な事柄や呪術的な事柄なんて一切知識も無く、そして関わりも知り合いも居ない。つまり、彼がどうしたら帰れるか、私では力になれないと言うことだ。そのことは佐助にもすぐさま伝えた。彼は、それについて思案した結果、私をチラッと見ると、ため息をひとつ吐いただけだった。私が嘘を吐いてないことが分かったのだろう。絶望して取り乱したりしないのが不思議だった。忍とは、心が強い人物なのだと、変に感心してしまう。自分なら、きっと途方に暮れ、悲嘆し、泣き喚くと思うから。

「あのね、ここに居ても良いとは言った。私から提案しました。でも、勝手に部屋に入らないでよ!」

そう、そしてつい言ってしまったのだ。自分の身に起きたら・・・なんて考えて、帰る方法が見つかるまで、ここに住んだらどうかって。ちょっと・・・いや、大分思い切ってしまったと思う。だって、まだ頭がおかしくなっちゃった、妄想の中で生きているだけの人かもしれない、という可能性も捨てきれないし、仮に異世界から来た人だとしても、あっさり武器で人を脅せる、・・・そして考えたくはないが戦国の世から来たと言っていたのだから、人の命も奪ったことがあるだろう人物と、同じ屋根の下に暮らしていくなんて、正気の沙汰とは思えない選択だ。だけど、私には彼を放り出すことなんて出来なかった。この世の人間ではない彼が、どうやって生きていけるだろうか?そんな風に考えると、放り出した後、彼がどうなったかは分からなくても、死なせてしまったんじゃないかって、きっとずっとモヤモヤし続けるに決まっているからだ。それに、彼は快楽のために殺人を犯すような人間に見えなかったのも理由のひとつだ。そして私たちはお互いに自己紹介を済ませ、これまた軽く問答の末、「佐助」、「叶ちゃん」と呼び合うことになったのだ。

「俺様、言われた通り扉の前でちゃんと何度も呼びかけたよ?でも、アンタが全然起きてこないから、何かあったのかなって思って来ただけ」

「うっ・・・そう、なの・・・。でも、今度から部屋の前でしぶとく呼び続けて。子どもじゃないんだから、お互い間違いでもあったらまずいでしょ?」

「ああ、俺様がアンタを襲うってこと?あはー、大丈夫だよ、その辺俺様理性が利くし。ああ、でも違う襲うなら、拾って貰って恩義を感じてるアンタでも、正直まだ俺様、もしかしたら元凶かもしれないって疑ってるから、可能性が無いわけじゃないけど?」

そう言って細められる目に、暗い光が宿る。この瞬間、こんな奴拾うんじゃなかった・・・と激しく後悔する。でも、やっぱり放り出せない、平和ボケした時代の申し子の私。ハァ、とひとつため息を吐いて、「着替えるから一旦部屋から出て」と言って、佐助をリビングへと追い出した。まぁ、この時も佐助は「はいはい」と素直に出ていったふりをして、こっそり影に溶け込んで私を見張っていたと後々知ることになったんだけど。というか、その際に完全に覗き魔のやるじゃないの!と叱りつけることになり、佐助は武器の有無とか、身体つきでどんな人物なのかを知るつもりだけで、イヤラシイ気持ちは無かったと言い訳したのだが。やっぱり私にとっては、変態行為には違いないと思う。この日、普通に平日だった私は、仕事に行く準備をしかけて、さすがに無理かと思い直し、携帯で仕事場に休むことを連絡した。平素、殆ど休むことが無かっただけに、時期が忙しかったにも拘らずあっさりと休みが許され、ホッと一息ついた。いきなり佐助を一人で家に残してはおけない。色んな意味で。外に勝手に出られても困るし、何かあっても困る。とりあえず今日一日で最低限のこの世界のルールを覚えてもらうしかない、と心に決め、大量の買い物に備えてざっくりとしたニットに、デニムを選んで身に付けた。

「佐助、お待たせ。とりあえず朝ごはん食べようか?」

「朝餉?俺様は良いよ」

私がお腹が空いただろうと思いそう提案するも、意外にも佐助は首を横に振った。私は驚いて何で?と言い募った。

「今から私、作って食べるし。佐助も一緒に食べなよ」

「要らないって。お腹、空いてないし」

そう言い張る佐助に、私は渋々「分かった」と言い、洗面を済ませてパンをトースターに放り込み、コーヒーを用意した。さすがにパンは要らなくても、コーヒーくらいは、と思って佐助の分もコーヒーを淹れる。

「はい、コーヒー。あ、コーヒーって分かるかな?」

淹れた後で佐助の居た世界にコーヒーなんて無いんじゃないかって気付くものの、まぁ、これからしばらくこっちに居るのならと勧めてみた。

「『こぉひぃ』・・・ふぅん、変わった匂いだね。ありがとう」

佐助はそういうものの、受け取ったカップに一切手を付けようとしなかった。そして時折食べている私に視線を送っていた。私はそれが何だか全く気付かなかった。私が、特別鈍いわけじゃないと思う。嫌な種類の視線だなとは思ったものの、そういう疑いを掛けられたことの無い私は、思いも寄らなかったのだ。飲み物に毒が仕込まれているかも、なんて佐助が考えていたなんて。佐助のそういった行為は、その後、3日も続いた。さすがに3日目には既に私も佐助が何を考えてそうしているか分かっていたし、どうしたら食べてくれるのか悩んでいた。このままでは餓死してしまうんじゃないか。そう思うと居ても立ってもいられない気持ちになった。

「佐助、あんたが食事に毒でも入れてるんじゃないかって、私を疑ってるのは分かってる。でも、そろそろ私がそんなことをする人間かどうかくらい、分かったんじゃないの?というか、そんなことより食べなきゃ死んじゃうでしょ!?いつまでこうしてるつもりなの?ねぇ、どうしたらごはん、安心して口に入れてくれるの?何でもしてあげるから」

私は必死に訴えた。すると、佐助は意外そうな顔をして、それから少し考えて料理の仕方を教えてと言ってきた。

「食事は俺様が作る。それなら大丈夫だ。でも、これの使い方がね」

そう言って佐助はキッチンのガスコンロやレンジなどを指差した。

「そう。なら佐助が作れば良いわ。私も仕事がある日はその方がありがたいくらいだし。でも、そもそも料理なんて出来るの?」

「出来るよ。これまで出された料理はほとんど知らないけど、煮付けや汁物、そう言ったものなら。何なら今までのも教えてくれたら多分、作れると思う」

その日から、キッチンは佐助のテリトリーとなった。今ではあの頃とは理由が全く違うが、やっぱりキッチンは佐助のテリトリーのままだ。その日の夕食は、一緒にキッチンに立った。私が毒を入れないか、監視してろという意味を込めて。そして、使い方を教えながら料理をし、出来たものはこれまで個別に盛っていたのを止めて、大皿に一緒に盛りつけた。同じものを口にするのに、毒なんて仕込めないという意思表示だ。さらに確認のために、炊飯器のごはんも、おかずも、私が先に食べて見せることで、その日初めて佐助はこの世界の食べ物を口にしたのだ。

「おいしい?」

「うん、おいしいよ。・・・悪いね」

佐助が唐突に私へ謝罪の言葉を口にした。これが、佐助の歩み寄りの一歩だった。









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