≪お昼寝≫



「・・・ちゃん。叶ちゃん・・・。叶ちゃん!起きて、もう支度の時間だよー」

「んんん・・・」

私は身体が揺すられるのを感じて何とか薄く目を開いた。結構本気で深く眠っていたらしい。ぼんやりと霞が掛かったような頭で、佐助の言葉を理解しようとする。

「したく・・・」

「そ、アンタ今日食事会に行かなきゃでしょ?」

続く言葉にもすぐに頭が追いつかない。しばらくして、ハッと眠気が飛んだ。

「そうだった!食事会だった。あーもぅ、やっぱりメンドクサイー」

頭が覚醒した途端、嫌な気持ちも一緒に蘇る。全く、どうして休みの日にまで気を使うようなことをしなくちゃいけないのだろうか?上司ももう少し放っておいてくれればいいものを。そんなことを考えつつも、出掛ける準備はしなくちゃいけないわけで。私はもぞもぞと動き始める。まずはホームウェアから着替えるべく、一応上司に会ってもおかしくない程度の服装を選ぶ。行き先はチェーン展開している居酒屋だ。それにお洒落をしたいとも思えない相手。多少の手抜きはご愛嬌だ。

「叶ちゃん、俺様髪の毛やってあげようか?」

「えー、良いよ。別に」

「別にって、一応きちんとして行くんだろ?」

「だって仕事じゃないし、きれいにしてっても見せたいような相手も居ないし」

「ほら、良いからここ座って。なら少し整えるくらいにしておくから」

佐助に言われて仕方なくドレッサーの前に腰を下ろす。寝たことで少し崩れた化粧を直している間に、佐助が手際良く髪を整え、少しだけアレンジをしてくれる。

「佐助、本当に上手だね。雑誌とか見てやってるんでしょ?私、あれやり方とか全然分からない」

「んふふ、良いの良いの。俺様がやってあげるから、叶ちゃんはただ座っててくれたら。俺様、自分の手でアンタを可愛く出来るのが幸せなんだから、アンタは出来ないままで良いんだよ」

「何その甘やかし。私だって教えて貰えたら出来るんだから」

「分かってるって。でも、俺様がやってあげたいから教えてあげなーい」

鏡越しに見せられる少しだけ意地悪な佐助の笑顔に、ツンと顎を上げると、佐助は面白いくらいわたわたし始めた。

「叶ちゃ〜ん?叶ちゃーん!ねぇコッチ向いてよぉー」

「なら教えてくれる?」

「だって・・・教えちゃったら俺様、叶ちゃんの髪をやる機会が減っちゃうでしょ?」

「アンタは過保護な母親か!毎日一緒に居るんだし、良いじゃんか。これ以上佐助のやること増やさなくてもって思うし・・・」

「やだ、俺様の心配して言ってくれてるの・・・?嬉しーい!!叶ちゃん優しーい!!」

佐助は大げさなくらい声を上げ、そして抱きついてくる。全くカッコいいのか可愛いのか、掴みきれない男だと肩を竦めるしかない。そうこうしている内に、家を出る時間が迫って、私は慌てて履いていく靴やカバンの用意をした。

「じゃあ佐助、いってくるね」

「はぁい、ううう、寂しいってなー。あーあー、もぅ。あ、帰って来るときは連絡してね!俺様迎えに行くから!絶対一人で歩いて帰ってきたりしないでよ!!」

「わ、分かってるって。いつも18時過ぎる時は電話してるじゃないの」

「じゃあ、駅までお見送りね!」

「え?ここで良いけ・・・」

「少しでも長く一緒に居たい、そうだよね!?」

「う、うん、そうだね。もー、佐助どんだけ寂しいの」

私がそう言って笑って見せると、佐助は拗ねたような表情を見せて唇を尖らせた。

「やっぱ髪の毛可愛くするんじゃなかった。俺様以外の男がアンタを見るかと思うと、その目をどうにかしてやりたくなる」

「あのねぇ・・・、そんなに誰も私に興味持たないから」

「そんなこと無いよ!職場の男に・・・あああ、ダメ。もしそんなことになったら俺様・・・」

何を想像したのやら、佐助は一人でギラギラした視線を天井に向けている。

「あのー、佐助さん。今日の食事会のメンバー、私がリーダーだし、歳も一番上なの。上司を除いてね。若い女の子がたくさん居るんだから、わざわざ私を選ばないでしょ。大丈夫だから」

「年齢とかどうでも良いから。叶ちゃんが可愛いって話であって!」

頭が痛い。そう言っても良いですか?良いですよね。こんの盲目男は正常な判断を私に対してだけは失っているとしか思えない。何で完璧なくせにこんなとこだけおかしくなってるんだろうか?不思議でならない。そしてその相手が何故私なのかも。

「佐助さー、そんなに心配ならもういっそついて来たら?一緒のテーブルは無理だけど、目の届く範囲に居たら良いじゃない・・・」

「え?行っても良いの!?」

「うん。ここでうだうだ言ってるくらいなら、そっちの方が話が早い。でも、絶対他人のフリだからね。どちら様ですか?どこの誰で、なんて聞かれたら、答えられなくて困るし、正体バレたらもっと嫌だし」

「うん、その辺は任せて!俺様に抜かりは無いから!!じゃあ、一緒に行こ〜」

現金なもので、あっという間に機嫌を直した佐助は、さっと手を繋いで駅へと出発した。外は少し陽が傾いて、すっかり気温も落ち着いていた。そんなとある休日の午後。







夏本番前に書いておいたのを、すっかり忘れていましたー(>_<;)時期、ちょっと外れちゃった!

しかしお昼寝って気持ち良いですよね。最高!大好きですよ。そうそう、作中のタオルケット、『ねんねタオル』って名前が付いてたり、付いて無かったり・・・でへ。


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