占い 51点



会議は取り出したデータで何とか乗り切ったものの、それを終えてデスクに戻ると電話が入っていた。しかも、それはどうやらクレームの類の電話で、私は気が重くなりながら先方に電話をかけた。

「ところがさ、私が電話をすると何でかお客さん、怒ってないわけ。電話を受け取った子には相当だったらしいんだけど」

「何かその子が気に障ることしたのかな?」

「んーん、別に至って普通の電話対応だと思うよ。怒っていた内容聞くと、とばっちりだったみたい。かわいそうなことしたわ」

「そうなの、そりゃ災難だねぇ。でも叶ちゃんのせいでも無いっしょ」

「まぁね。それで、電話の件も少し話してすぐに終えられたんだけど・・・」

「まさかまた問題発生?」

「そう、そのまさかよ!もうここがトラブる?ってとこでことごとくトラブルになるのが今日だったのよ」

私はしみじみと今日の大変さを思い起こした。電話を終えた後、そのまま本日の仕事を続け、11時前になったところで11時から取引相手の訪問を受ける仕事の書類を纏めていた。

「その際に書類を見直していたんだけど、何と書類が間違っているのよ!その間違いも金額の欄で、一番間違えちゃいけないところ。正直朝からの続くトラブルの中で一番焦ったわよ」

「取引金額ってのは、いつの世も一番大切だからねぇ」

「でしょう?信頼問題だし、お金は揉め事の一番の元だから」

私は慌てて原因解明に乗り出した。どこがどう間違っているのか、電卓を必死に叩いて弾き出した結論がエクセルデータの一部故障だった。つまり、一覧に金額が載っているものの、何故か合計額に反映されていないのだ。

「もー、先方が来るまで15分だったから焦ったわよ。でも、ラッキーなことに道路工事のせいで渋滞が発生したらしく、先方から遅刻するって電話連絡が来てね、結局15分遅れて来てくれたから書類の訂正もばっちり!相手は遅刻をすごく詫びてくれたけど、こちらとしてはありがたいことだったし、その貸しじゃないけど先方にも非があったからか、金額訂正の話を詫びながらのその後の打ち合わせもスムーズに終ったわ。実際は金額の訂正って言っても、事前に合計されていなかった金額分についてはその前の打ち合わせで話して了承を得ていたし、書面上の合計金額が変わるだけで実際話し合って了承を得ていた金額とは変更無かったのも大きかったみたい」

「ああ、それなら金額の確認だけで済むもんね。良かったね、きちんと話して置いて」

私は佐助の言葉に頷き返しながら、ふわふわとろとろのオムライスをスプーンで切り崩し口に運ぶ。すっかり洋食も腕を上げた佐助の手料理に舌鼓を打ちつつ、更なる続きを話した。

「ここまででも十分凄い一日でしょう?というか、これでまだお昼前よ?正直既に私は疲れ切っていたわよ、精神的に。大きな山をいくつも乗り越えたからさ」

「本当、お疲れ様。でも聞いていると今までのところ全て悪い方向に行くどころか、むしろギリギリで回避しているように思えるんだけど?」

「うん、此処までは良かったのよ。というか、午後からのトラブルの布石?この後が本当に大変だったことなの」

私は思い出すだけでため息を吐きながら、一口グラスの中のアルコールを飲んだ。しゅわっとした炭酸が少しピリッとしたのは、気のせいだろうか?

「午後は特別打ち合わせなく、私はプレゼンを作っていたのよ。明後日お客様との打ち合わせで提出予定のやつ。だから時間的にはそんなに切羽詰まってなかったの。午後からは午前と違って少しゆったり仕事をしていたんだけど・・・。そしたら何と、私ったら違うお客様の要望を明後日のお客様のものだと取り違えて、全然合って無い提案ボード作っちゃってて、もうプチパニックになったわよ!」

「あらら。でもそれも今日気付いて良かったじゃないのさ。当日気付きましたってんなら問題だけど」

「そうだけど、それは最悪の場合の話でしょう?ボードにはサンプルをくっ付けるんだけど、それを取り寄せるのに数日掛かるから、間に合わないのよ。それでキツーイお説教食らっちゃった」

ハァ、とため息を吐いて、天を仰ぐ。全く、本当に点数通りの一日だ。問題山積、解決スレスレ・・・いや、最後はアウトに近いか。

「叶ちゃん、そんなにしょんぼりしないで?そんな日もあるって。俺様さ、元気づけるためなら何でもしてあげちゃうから!!そうだ、ごはん食べたらマッサージしてあげようか?」

「いい・・・。その代り、くっ付いててもいい?」

「もっちろん!甘えんぼさんの叶ちゃん、大好き!!」

何だか珍しくひと肌がものすごく恋しいというか、佐助にベッタリとくっ付きたいという気分になった。この一言で佐助も幸せそうに笑ってくれるのだから、もの凄く幸せなことだ。最終的に占い、51点以下じゃないと不満に思っていたけれど、佐助の笑顔でプラス点が付けられそうだ。

「ほんと、変わってるんだから。そんなこと言うの、佐助だけだよ。普通は甘えられ過ぎると鬱陶しいものなんだから」

「それは器の小さい人間の言うことだよ!愛してる女一人受け止められないなんて、俺様信じらんないッ」

「それは私も当てはまるんじゃないの?佐助がベタベタすると止めてっていう時あるし」

「叶ちゃんは良いのー。というか、男がってことだよ。俺様の周りにはそんなこと言う人間、一人も居なかったけどねぇ。この世界の男は確かに妙に女々しいのが目に付くかも」

「佐助の周りは特殊なんじゃないの?話を聞いているだけでも、私にはやること為すことスケールが大きすぎてついて行けないもん」

「あはー・・・、まぁ、そうかな?」

佐助はそう言って苦笑を浮かべる。話しながらも食事はそのまま進み、食べ終えると食器は食洗器に任せて二人でソファに座る。先程の宣言通り、私は佐助に寄りかかるようにして隣に腰を下ろし、テレビをぼんやりと見つめた。映し出されているのは、とある旅番組。美味しそうなごはんに、気持ち良さそうな温泉と景勝。

「ねぇ、佐助。今度旅行にでも行こうか?自然いっぱいの温泉」

「いいね、楽しみだな」

「佐助の故郷に行くってもの良いね。長野だっけ」

「そうそう、今は長野っていうところ。そこなら旦那の秘湯があるよ。時折行ってた」

「そうなの?」

佐助が温泉に行っていたということに驚いて身体を起こす。佐助はニコニコしながらその話を聞かせてくれた。

「もちろん俺様は旦那の付き添いだけ。だけど、良い場所だよ。秘湯なだけあって人と出会うことは少ないし、綺麗な景色が全方向に広がってるの」

「今もあるかな?」

「あー、どうだろうねぇ。調べておこうか?」

「うん、そこがあったら一緒に行こうね」

佐助の思い出の地に行けるかもしれないということを、嬉しく思った。絶対に共有できないのが過去で。特に世界も時代も違う私たちが、この世界で、まして佐助の過去を辿れることなど基本的に不可能だ。それが、もしかしたら佐助と共有出来るかもしれない。それに共有出来るか否かは別にして、温泉でまったり寛ぐこと自体楽しみだ。蓄積された疲れで、身体が重い。

「温泉〜、叶ちゃんと温泉〜!むふ、楽しみだなぁ」

「・・・佐助、気持ち悪い笑い方しないでよ。また変なこと考えてるなら、そんな出先まで止めてよ?」

「変なことって!ただ俺様は叶ちゃんと一緒に温泉に浸かりたいだけで・・・」

「一緒、は無理でしょ。その秘湯とやらが混浴なら出来るけど、悪いけどそれだったら私から遠慮するわ。混浴とか、嫌だし」

「確か家族風呂なら良いよね!?俺様必死で探すから!!」

「いや別に、別々に入れば・・・」

「ダ・メ・です!!」

「・・・あ、そう」

佐助の剣幕に押されながら、私は頷いておいた。これ以上何を言っても変わらないだろう。早速頭の中で検索のシュミレーションを打ち立てているのか、一人でぶつぶつ言っている佐助は放置して、クッション代わりに凭れながらテレビに意識を向けた。静かで穏やかな時間が不意に到来する。私は、今日の疲れをやれやれと振り払いながら、お風呂までの短い休憩時間を過ごした。





占い、信じてますか?私は朝の番組の占い(決まった番組の)をつい見てしまいます。順位が良いとやっぱり嬉しい私です(笑)


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