≪光ある場所≫





ガクン・・・。

身体が落ちていく感覚に驚いて身体を震わせながら飛び起きた。一瞬何が起きたのか理解が追いつかない。

「叶ちゃん、おはよー」

ほんの間近から佐助の声が聞こえ、私は自分がそれまで何をしていたかやっと思い出した。そして確認するように後ろを振り返ると、私を背中から抱きしめている佐助がにこにこしているのを視界に捉えた。もちろんその顔に年輪のような皺は一つも無い。

「いつもの佐助だ・・・」

「は?」

佐助は私の呟きに意味が解らないと首を傾げた。

「私、寝ちゃってた?」

「うん、一緒にランプ選んでる途中でクーって。かわいかったぁ」

そう言ってくふくふ笑う佐助に、寝顔を一方的に見られた恥ずかしさでちょっと拗ねた気持ちが生まれる。毎日見られているのだろうけれど、こういう不意打ち的なものは乙女心として見られたくない。

「どれくらい寝てた?」

「ほんの1時間くらいだよ?」

「そっか・・・。その割に壮大な夢を見たわ」

今まで見ていた夢の重量に、ほぅと息を吐いた。一言では言い表せない気持ちが身体に溢れている。そしてもう一度佐助の顔をじっと見た。そこにはやっぱり皺どころか染一つ無い。

「じっと見つめて来てどうしたの〜?あ、俺様のカッコ良さにうっとり?」

「うん、やっぱり夢だったんだなぁって」

「え・・・、何、この微妙な突き放し感」

「そうじゃなくて。なんか何が夢か分からなくなってるの、今」

「そんなにリアルな夢だったの?」

「うん。でも、夢の中で私も佐助も今よりずっと歳取ってた。今からずっと未来のことを夢に見てたの」

「へぇ。二人ともってことは、それまでずっと一緒に居る未来ってことだよね」

「そう。佐助はずっと私の傍に居て、一緒に年を重ねてて・・・。今日の日のことを思い出して二人で話すって内容だったの。それも将来の私が今日のことを夢に見たことをきっかけに話すって内容だったもんだから」

「あぁ、なるほど。それは混乱するよな」

佐助は私の言葉を拾い上げて、うんうんと頷いた。

「でも、良い夢だよね」

「そうだね」

佐助の言葉に、私も思わず笑顔になった。同じ気持ちなのが嬉しい。

「俺様は叶ちゃんが皺シワになっても変わらず愛してたでしょ?そうじゃなきゃおかしい」

「ちょっと、皺シワとか余計だから!でも、佐助は変わって無かった」

そう、何年たっても佐助の愛は変わって無かったと断言できる。むしろ時を重ねた分、私の不安定さが無くなって、穏やかな愛に包まれて幸せだった。

「多分それ、予知夢だよ。きっと」

「そんな非現実的な」

「たまに説明のつかないことだって起こるさ。そうじゃなきゃ俺様が此処に居ないでしょ」

確かに。そうとしか言えなかった。科学ではまだまだ分からないことがたくさん溢れている。

「そうね、佐助の言う通り、幸せな未来だったと信じることにしようかな」

「絶対そうだよ」

佐助は私の髪に顔を埋めるようにしてそう断言した。後頭部に振り落ちるキスを感じながら、私は幸せな気持ちに口元が緩むままにしていた。

「あのね、歳を取っても佐助は素敵だったよ」

「そ?アンタにとって相変わらず良い男で居られたなら何よりだよ」

「夢じゃなくなると良いなぁ・・・」

「なるよ、絶対」

「・・・うん」

夢の通りの未来ということは、夢の中で佐助が語ったことが現実になるわけで・・・。というか、今既になっているのかもしれない。どうなんだろう?と検証したい気持ちはあった。でも、それを今佐助に聞くのはしなくても良いかとも思った。いつか、今日という日が思い出になった頃。懐かしんで話せるときが来たら聞こう。私はそう心にしまった。

「ランプ、良いのを探そうね」

「どんなタイプにするかから決めなきゃね」

「でも、今日はもうお終い」

「え?ちょっと寝たし、私、目も覚めたけど?」

「んふふー。だってほら、今日は記念日でしょ?俺様の誕生日」

「うん、だからおめでとうって・・・」

「言葉だけ?」

「あ・・・」

ようやく佐助の言いたいことが分かった。ケーキも食べたし、食事も美味しくいただいた。まぁ食事は佐助が作ったのだが・・・。乾杯もして、記念の内容も決めた。あとはそう、それが自然というものだろう。

「今日だけは我儘でも良いだろ?」

「明日も仕事だし・・・、お手柔らかになら・・・」

「うーん、分かってるんだけどねぇ」

既に破られそうなお願いに、それでも仕方ない、今日だけは特別枠だと思った。が、もちろん口にはしない。しようもんなら大変なことになる。暗黙の了解ってやつでお願いせねば。

「俺様、叶ちゃんにだけは我慢の仕方を忘れちゃうんだよね」

夢の佐助の言葉を信じるなら、これも深い愛情なのだろう。愛されている、それだけで幸せだと思えた。私こそ、こんなに純粋な愛だけの関係は、佐助が初めてだ。いつか佐助と思い出を語る日が来たならば、私も佐助にこのことを伝えたい、そう思った。


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