≪光ある場所≫




「ねぇ、佐助。次の週末家具見に行かない?」

「良いけど・・・。何か必要だったっけ?」

佐助は目だけを部屋に巡らせて、私の言葉を思い出しているようだった。何気なく呟いた要望も、ずっと覚えてくれている佐助。そんな佐助に違うと首を横に振った。

「必要って言うか・・・、今日の記念のモノを残しておこうかなって。それをこれから長い間大切に一緒に二人で使うの。どう?」

「うん、それ良いね」

佐助は私の言いたいことを汲み取ったらしい。私の頬に手を添えて、覗き込まれたその顔はいつの間にか穏やかな笑顔に変わっていた。1年目の記念日はお揃いのピアスにした。これは今でもお互いの耳に付けられている。次は普通なら指輪でも・・・となるのかもしれないが、私の職場は基本、見える装飾品は結婚指輪しか認められていない。それならば、と形に残すならずっと残せるものにしたかった。ものである以上、永遠に残るものは難しいと分かっているけれど、家具なら普通より長く使えるはずだ。

「何を買おうか?」

「毎日使うならソファかダイニングセットか・・・。ベッドとか?」

「うーん・・・、どうせなら今無いものを買い足さない?」

「何かある?俺様よく知らないから・・・」

「そうねぇ・・・、私も思い付けないわ」

思わず苦笑を浮かべた。自分から提案しておきながら、何も思い付けない。このマンションで一人暮らしを始めようと思った時、家具などは一通り揃えた。しかもものすごく気合を入れて・・・。何軒もインテリアショップを回り、雑誌などでも吟味を重ね今の部屋を設えた。だから買い足す必要のあるものは正直無い。

「あ!でもランプなら欲しいかも」

「ランプって・・・明かりのこと?」

「そう。間接照明を増やしたいかなって最近思い始めたの」

それも少し値の張るものでもいから、もの凄く気に入ったものを置きたい。そう言うと佐助はその提案にニコッと笑って頷いた。

「それ良いかも。明るいお部屋よりちょっと柔らかい明かりのお部屋の方がイチャイチャしやすいし〜」

「何でそうなるのよ」

折角の素敵提案を思い付いたのに、佐助の留まるところを知らない欲望に残念なものにされてしまった気がする。私が少し顔を顰めると、佐助は心外だと言いたげに眉を上げて見せた。

「えー、別に良いでしょ?その明かりのもとでの二人の様子を想像するのは個人の自由だもん」

「う、まぁそうだけど・・・」

確かに言う通りだ。私に強要しているのなら問題だが、勝手に想像している分には個人の自由だ。そこまで私も縛れないし、縛る気も無い。何だか上手く言いくるめられたなと思うものの、馬鹿なことを口走っていても笑顔の佐助の方が良い。

「なら今日はどんなのが良いか、一緒に相談しよ?」

「そうだね、じゃあ画像があった方が佐助も分かりやすいだろうし、ノートパソコン持ってくる」

そう言って私は寝室に置いてあるノートパソコンを持ってきてさっそく立ち上げた。佐助はパソコンを抱えている私の背後にまわり、腰に腕をまわして抱きかかえるようにし、肩口から画面を覗き込んだ。肩頬に感じる佐助の呼吸、そして背中に感じる佐助の体温が、何故かひどく私の心を揺さぶった。

―――絶対にこの人を失いたくない。

何気ない瞬間に感じる強い思い。こんなに人に執着をしたのは初めてだ。なのに、執着した人は誰より傍に居てもらえるか分からない相手で・・・。私はクリックを繰り返しインターネットのページを繰る。次々と画像を見ていくも、上の空だった。

「叶ちゃん、今日は寝る?」

佐助の声でハッと遠くに行っていた意識を取り戻した。慌てて「ごめん」と謝罪の言葉を口にした。

「ちょっとボーっとしただけだし、大丈夫だよ」

「でも、これ急がないしさ。何なら何日か一緒にたくさん見ようよ。そうしたらその間俺様、叶ちゃん公認のもとくっ付き放題だしー」

佐助は言いながら回していた腕に力を加えた。より密着する身体、そして高まる体温。

「ね、俺様アンタを置いて勝手に帰ったりしないから安心してよ」

唐突に語られた言葉に、思わず佐助を振り返った。佐助は相変わらず優しい笑みを浮かべていた。

「うん・・・」

ただ一言、返事しか出来なかった。泣きそうで、喉がつかえるような苦しさを飲みこめなかった。いくらお揃いのモノを身に付けても。この先にある長い時間共に使えるものを置いても。それ自体に何かの拘束が生まれるものじゃない。そんなことは分かっているけれど、おまじないでもするようにそういうモノに頼りたかった。それらがあるだけで安心できる気がして・・・。

「気に入ったランプ、見つけような。んふふ、俺様その明かりに照らされるアンタを早く見たいよ」

「バカ・・・」

佐助は自分の良くない妄想に焦っている私を、さりげなくいつもの私へと連れ戻す。軽口の中の思いやり。私は佐助の目を見つめて言った。

「佐助の全部が好きだよ」

「俺様も・・・、アンタの全部が愛しいよ」

佐助もまっすぐ私の目を見つめ返してそう言った。









「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -