Happy Birthday!!



話は初日に戻すが、仕事を休んだ私は、佐助が生活していく上で必要なものを買い出すことにした。まさか、いつまでも着たままの服を着ていてもらっては困る。集合住宅に住んでいるのだから、近所の手前、普通にしていてもらわねば。そう思ってとりあえず服を揃えることにした。見た目はかなり重要だ。今の時代、とても便利だと感じたのは、外に出なくても何でも買える点だ。私は佐助の身長や肩幅、腰回り、股下などをメジャーで測り、ネットで何着か注文する。ただし、下着やパジャマと言ったものは緊急に必要なため、近くの店に恥を忍んで私が一人で買い出しに行ったのだが。残り服や靴は、サイズも分からないし、服が届き次第それを着て買い足しに行くこととする。それを終えると、次は佐助にこの世界のルールを教えることにした。まず武器の携帯を止めさせることから説明しなくてはならなかった。正直、見つからなければ良い。手に持って歩くのが困るのだ。あと、人殺しなどの重罪も。この世界ではそれが何を意味するのか、説明しながら佐助に質問させて詳細に教えていく。この世界の一般常識は、佐助にとってきっと驚くべき内容だっただろう。それでも何も言わずに聞いていた。驚いたのは、佐助がこの世界の文字を読み書き出来ることだった。どうやらこちらの歴史にあるような、ミミズののたくったような字は通常使われていないようだ。さすがパラレルワールド。ただし、公的な文書は草書体、つまりやっぱりミミズののたくった文字を使用するみたいだったけど・・・。そんなわけで、常識については追々その場その場で教えたり、某民放放送の子ども向け番組を観たりしていたのもつかの間、すぐにニュース番組なども見るようになり、番組で使われるフリップなどもきちんと理解するまでにそう時間は掛からなかった。そう、佐助はとても頭も切れる人間だった。

「佐助ってさ、優秀な人なんだね。私より最近じゃ世の中に明るいんじゃないの?」

「んー、そうだねぇ。俺様出来る男だから」

「普通そこは否定しない?謙虚って言葉、知らないわけないよね?」

「あはー、俺様無意味な嘘はつかないの」

佐助の態度に私は苦笑しながらも、何故か嫌味に聞こえなかった。もちろんそれが本当のことだと言うのもあるけれど、そう感じさせないのが佐助なんだろう。この時既に佐助がこちらに来て1か月ほど経っていただろうか?経つか経たないかくらいの話だと思う。佐助の態度は当初より軟化していると感じ、実際実務的な会話以外の会話も増えた。この頃、佐助に家事も任せていた。あーっと、今では本当のお任せだが、この頃の私にはまだ羞恥心があって、下着は自分で洗濯していたけど。あと、私の服をクローゼットにしまうのも自分でやっていた。最近じゃ、本当に佐助が居なくなったら私、どうなるんだろう?ってくらいお任せだ・・・。それはさておき、私が平日仕事に行っている間、一人にしていることにも不安を感じなくなり、生活はとても上手くいっているかのように見えた。いや、システム的には最高に上手くいっていた。ただ、ソフト面、精神的な面でギクシャクしていた。表面上は穏やかに過ごしているものの、私と佐助の間には、ビシリと引かれた線があり、そこは決して越えられないのだ。佐助は相変わらず私を全面的には信用していなかった。私に恩は感じてくれているとは思えた。とてもよく気が付く佐助は、私が生活しやすいよう、あらゆるサポートをしてくれていたし、私も佐助のそう言う点に十分過ぎるほど満足していた。でも、私が作った食べもの、飲みものはやっぱり口にしないし、生活に必要以上の、娯楽的なものも要求してこなかった。また、自分のことも話してはくれなかった。聞いても上手くはぐらかされたり誤魔化されたり。最低限の恩義で済ます、そしてある一定以上は踏み込ませない。そういう態度を貫かれていた。だから、佐助の笑顔を見ても、やっぱり貼り付いているように感じていたのも本当だ。とても上手な笑顔だったけれど。

「ねぇ、いつまで私を疑うの?ずっと・・・そんな風に一緒に居るの?」

「え?俺様そんなつもり無いけど。アンタを疑ってなんて無いよ」

「疑ってるでしょ?未だに私が淹れたお茶は飲まないし、佐助のこと聞いても何にも話してくれないし」

「そんなこと・・・」

「あるでしょ?」

私は静かに佐助にキッパリと言った。1か月待った、佐助に家のことを任せてから。私にとってそれは、佐助に「あなたを信用する」という意思表示だったのだ。佐助が語った少ない情報、つまり異世界から来たこと。それに伴う様々なことを信用し、それこそ金銭トラブル、肉体的な危険、そう言ったことも佐助なら大丈夫だと全て晒しているのだ。女の一人暮らしであることを考えると、もの凄く大きな決断だったのに、佐助の態度はそれを踏みにじっていると感じた。私が大人じゃないから、そう思うのかもしれないが、やはり信頼には信頼を返して欲しかった。

「・・・・・・ごめん」

佐助はただ一言、そう言った。それは全てを認める言葉だ。私は分かっていたのに悔しかった。

「私、佐助をどうこうなんて出来ないし、する気も無い」

「うん、だと思う」

「なら何で?」

「・・・俺はずっとこうやって生きてきたから。今更こうしか生きられないんだ・・・」

佐助は初日に見せた顔とはまた違う、でも酷く真剣な表情で私にそう答えた。佐助の人生がこれまで、どんなものだったのか、私の想像は追いつかないだろう。きっと私の知らない世界の出来事が、佐助にとっては日常だったに違いない。

「でも、変わって。帰れる方法が見つかるまで、ここで生きていくしかないんだから」

「・・・・・・」

私は、佐助にもっと自由に生きて欲しかった。そして、安心して暮らして欲しかった。毎日、命の心配をしながら生きていくのは、どんなに大変なことだろうか。

「今日から寝室のドア、開けて寝るわ。いつでも入って来たら良いから。あと、私の部屋の中、もう調べてるかもしれないけど、勝手に見て困るものなんて無いからね。必要なものは自由に使って?」

「・・・何でそこまでするの?」

「2か月も一緒に居るんだもん。佐助は積極的に私に何もしないってもう分かったし、私も佐助に隠し事は無いって言いたいだけ。それだけよ」

「・・・・・・」

佐助は信じられないという顔をして、そして何とも言い難い表情を浮かべた。困っているような、照れているような、嬉しがっているような、そんな複雑な顔だった。その会話をした日から、本当にゆっくりだけど佐助は徐々に変わって行った。私に向ける笑顔が、柔らかくなった。元々表情は良く変わる方だと思っていたけれど、そのどれもが作り物めいていたのに、そう感じなくなった。そして、佐助からよそよそしさが無くなると、とても温かい家が出来た。私と佐助の、夫婦でも恋人でも、友達でもない、なのにあったかい場所。私はいつの間にか佐助に心を寄せていた。










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