目蓋をすり抜ける柔らかい光で目が覚めた。
目を開ければそこには見慣れぬ天井。はっきりしない視界ゆえかとも思ったが、しぱしぱと数回瞬きをしても見慣れた部屋の木目とは大きく違うような気がする。


「………」


一つ息を吐いてからはて昨日はどうしたのだったかと考えを巡らせる。
現状から分かることは自分が寝巻きではなく隊服のまま就寝してしまったこと。どうやらこの部屋は南に面しているらしく、障子越しにも明るい光が射し込む構造になっていること。
どうやらここは隊の私室ではないようだが、それでは果たしてどこであったか。昨夜は確か早めに仕事を切り上げて…ああそうだ、錫高とかいう役人の接待に出かけたのだった。接待も仕事のうちと割り切りつつも渋っていたのを上司に無理矢理引っ張られ、真選組の話を肴に酒を酌み交わし――


「…いてェ」


が、何故かその先が思い出せない。どこか攘夷活動、延いては日々の隊務を侮るような発言を繰り出す錫高に苛立ちを覚えたような気はするのだが、そこから先の記憶がぷっつりと途切れてしまっている。しかも無理矢理思い出そうとすれば割れそうな痛みに襲われる始末だ。
二日酔いたァ情けねえ。自分自身初めての経験ではないし、酒の場にはつきものとも言える現象であるが、それでも腰に提げた二本の刀に誓って、自分だけは揺らがぬようにと己を律してきたというのに。

ごろり。手触りのいい布団の上を転がってみる。綺麗に洗濯されたまっさらな敷布は心地よく、恐らく頭を乗せていたのであろう足の高い枕は他所に放り出されていた。掛け布を探せば足元でもたつくように退けられている。…どうやら自分は昨夜の夜寝で随分と気を抜いてしまっていたらしい。
呆れつつ上体を起こすべく片肘を突く。すると額から滑り落ちる何かがあるのに気付いた。重い頭を回して確認してみれば、どうやら濡らした手拭いであるようで。


「…何だこりゃあ」


既に体温を吸い取って温くなってしまっているそれに覚えはない。察するに誰かが自分を看病してくれたのだろう。
しかし誰が。思いつく限りでそんな殊勝な人物はいない。いくら同じ隊の同胞とはいえ二日酔いで倒れた男を介抱する物好きなどいないだろう。どころか魘されているのを腹を抱えて笑いながら顔にらくがきの一つでも残していきそうだ。…いや流石にそこまでする野郎は一人しかいないか。

そこまで考えてまた思考が冒頭へ帰結する。
結局ここはどこなのか。接待をしたからには恐らくその会場であるのだろうが(万が一ここが屯所であるならば、もっと表が騒がしいはずだ)、それにしては静か過ぎる。自分は昨夜どこで酒を飲んだのだったか…

再び思考の海に沈みつつまどろみの中でぼんやりとしていると、突然左手の襖がガラリと音を立てた。驚いて目を見開くがどうにも体が動かない。思いの他酒が残っているらしい。
いきなりの攻撃はなかったものの、相手が刺客の類であったらと背筋が寒くなる。慌てて起き上がるがどこにも愛刀が見当たらない。しまった、謀られたか――


「…あれ、お目覚めですか」


が、そうして己の失態に顔を青くしていた矢先、降ってきたのは刀の一閃でも鋭い凶弾でもなく、どこか間の抜けた声音だった。
聞き慣れない、けれどどこか覚えのあるその声にそっと顔を上げる。すると然程高くはない位置からこれまた間抜けな顔をした人物がこちらを見下ろすのと視線がかち合った。


「…お、っお」

「お?」

「お前…!」


それと同時に昨夜の記憶が一気に蘇る。どうやら肝心な酒宴の会場を忘れていたのは自分の中の防衛本能とやらが働いた結果であったようだ。
さっきまで以上に顔を青く――否、最早白になるまで血の気を引かせた男の震える指が差した先には、浴衣に身を包んだ女のような若者がいた。



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