「無口で無愛想な反動なのかな。目がさ、ぜーんぶ言いたいこと伝えてくるよね」

「…う、うそ」

「嘘じゃないよ、だって俺君が言いたいこと手に取るように分かるんだもん」


あっさり言ってのける尾浜だが、それは貴方が読心術でも心得ているからではないかと言いたくなった。忍者でも本当に手練れの人間しか会得しないと言われる難しい術ではあるが、目の前の人間ならばそれくらいやってのけてしまいそうなので余計に怖い。


「…い、今まで、そんなの、言われたことない…もの」

「そうなの?じゃあその人たちは君の表面しか見てなかったんじゃないの?」

「(ぐさっ!)」


驚いたように発された言葉だが、言われたこっちがびっくりした。いやいやそんな馬鹿な。確かにどちらかと言えば落ち零れな私かもしれないが、ちゃんと理解してくれる人たちはいたはずなのだ。うん。
崩れそうになる精神を気力だけで奮い立たせて私は頭上の尾浜を見やる。よくよく見ると整った顔立ちをしている…気がしないでもない。優しげに垂れ下がる眉やまなじりに騙されぬよう、きっと視線を尖らせる。


「不思議な子だね。ちょっとつっつくだけですぐに潰れそうになる癖に、恐ろしい程立ち直りも早くて」

「う、うるさい」

「ああ、口が悪いのはよくないな。口数が少ないんなら、もっと可愛い台詞で来てくれなきゃ」


余計なお世話と言い募ろうとしたところへ、尾浜の右手が伸びてくる。そのお陰で私の左手首が一瞬解放されたのだが、こちらが動くより早く奴の左手で両の手首をひとまとめにされてしまったため結局体勢に影響はないようだ。
一方自由になった右手でもって、尾浜はそろそろと私の頬を撫でてきた。


「でも俺、君の目はすきなんだよなあ」

「………」

「言いたいこと言わない代わりに、じっと見つめてくるでしょ?それがすごく可愛い。勿論俺的にだけど」


かさついた親指で目尻を撫でられる。無防備な眼球に自分のものではない指が伸びてくることに恐怖を覚えたが、必死で目を瞑るのを我慢した。
ふふ、尾浜が笑う。


「俺ね、さっきまでは見逃してあげてもいいかなあと思ってたんだ」

「…な、何を」

「でもだめ。一瞬でも俺に触れたいって言った、そっちの負けね」

「は、はあ!?」


そんなこと言ってない、口にするよりも先に尾浜の手のひらが私の口を覆う。お陰で発しかけた言葉は口先で押し留まり、「ふぐっ」という情けない音でもって奴の手の中で霧散してしまった。


「あー可愛い。すごいいじめたい」

「っ!?むがー!!」

「はいはい暴れないの。あ、どうせ忍者向いてないんだしさ、房中術の訓練とかやめて、俺のお嫁さんになる?」

「もげー!!!」

「だからもげーはやめなって」


じたばた暴れる私を意にも介さず尾浜は笑う。何も変わらないと思っていた一年の月日は、奴を確実に大きく、そして根性曲がりに成長させてしまったようだ。


「どうにかして逃げなきゃって考えてる?だめだよ、俺だって単位が惜しいんだから」

「ふがー!!!(誰かー!!!)」


とりあえず必死に尾浜の言うところの可愛らしい目とやらで一生懸命に念を送ってみるが、それが通じるかどうかはどうやら奴次第のようであるらしい。



テレパシークイズ
(Happy Birthday??)



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