もしかして何か怒られるのか。色々やらかして常習犯とか言われたりする私ではあるが、だからと言って怒られ慣れているわけでもない。相手にそれらしい気配があれば逃げたくなるのが人間というものだろうし、第一この距離感では殴られても抵抗ができないではないか。
心なしか下腹部から下の部分にかけてのしりと体重をかけてくる尾浜がとてつもなく怖い。いけないとは知りつつふっと目を逸らしたら、また一つ頭上でおかしそうな声が響いた。


「…俺が、怖い?」

「…っこ、こわくない!」

「あは、嘘つきはよくないよ」


幼い子供を叱りつけるような口調ではあるが、どこか有無を言わさない威圧感がある。せめて負けないようにと勇気を振り絞ってへらへらした笑い顔を睨みつけてやるが、やはりというか、あまり効果はないようにも思えた。


「今考えてること、当てたげようか」

「っ、いい、退け、おはまっ!」

「だーめ、忘れんぼさんにはお仕置きしないと」


ふふふ、風が僅かな隙間を通り抜けるような笑い声。これまでのバリエーションにはなかったそれにぞわりと背筋が粟立つのを感じる。流石にこれ以上はまずいと思いつつも、既に体重のほとんどで私を拘束している尾浜からは逃れられそうもなかった。


「実習、忘れちゃだめじゃない」

「じ、しゅ…」

「房中術、やるんでしょ?俺ずーっと待ってたのにさあ」


世間話をするような軽い口調で私の非を突いてくる。どうやら私の周りが実習を完了するということは、同時に尾浜の周囲の人間がそれに伴い彼らの“実習”を終えることと同義であったらしい。私たちより少し早く褥での訓練を終えていた忍たま五年生にとって、今回のそれは床技の総仕上げに当たっていたようだ。
確かにそんな大事な実習を一方の勝手な行動ですっぽかされてしまっては堪らない。顔では笑っている尾浜だが、心中激怒しているのではと私は一気に血の気が引いた。もしかしたら、これは冗談でなくぶん殴られたりするのかもしれない。そうでなくともこのまま無理矢理にとかいう18歳未満お断りな状況に雪崩れ込むのかもしれない。何にせよ、痛いのも辛いのも私は御免だ!


「…っご、ごめん、ごめんなさい」

「んん?何が?」

「わわ、忘れてたわけではなく、ですね」


慌てて弁解を始める私を尾浜はそれはそれは楽しそーうに眺めている。
確かに忘れていたわけではないが、忘れようとしていたのは事実である。それだけ私にしてみたら憂鬱な実習であったわけで、言わせてもらえば憂鬱どころか本当に本当に嫌な気持ちで一杯だったのだ。しかしそれをどう説明したものかが分からない。口下手を理由にするつもりはないが、どう言えばこの状況を上手いこと回避できるのか見当もつかないのだ。
どうしようどうしようと混乱する私に、尾浜はくすくすと笑いを零す。それが死へのカウントダウン開始の合図に聞こえて、私は慌てて口を開こうとした。が。


「君さ、ほんっと忍者に向いてないよね」

「…え」


一刀両断するかの如く叩きつけられた言葉に声を失ってしまう。
にこにこ。尾浜は笑っているが、同時に怒っているようにも見えた。それはもしかしたら恐怖のあまりに私の目が見せた錯覚かもしれなかったが、発言を取っても怒っているようにしか感じられない。ていうか対して知りもしない相手によくもそんなことが言えたもんだな。



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