いいか、よく聞け。お前と“契約”を結ぶ前に一つ言っておくことがある。馬鹿なお前にも分かるようなるべく簡単に、かつ簡潔に言ってやるから感謝しろよ。
導入からして長い?てめェこれっくらいにもはいと頷けないようじゃ、これから先やってけねーぞクソガキ。
まず、始めに。
俺はお前の親じゃねェから、お前がどこで何をしていたかに興味はねえ。乞食だろうと犯罪者だろうと、お前にその能力があって俺がそれを欲しているんだから問題なんてあるもんか。
それからお前がこの先どうなろうと俺は構わず先へ進むからな。死ぬなり生きるなり好きにしろ。ただし俺に迷惑はかけるな。
次に賭博に強くなれ。理由は嫌でも分かる。…そうだな、まずは今夜の寝床とメシの確保だな。(ボソリ)
…あン?一つじゃないって?
馬鹿野郎まだ一つ目の途中なんだよ。人の話は最後まで聞けや。
俺はお前を支配する立場にあるが、面倒事は御免だ。だから好きにすればいい。人を殺すも生かすも、お前が生きるも死ぬも、食うも寝るも吐くもヤるも。
誰かを愛したって構やしねェさ。俺はお前の恋人になる気はサラサラねえからな。
ただ必要なのはお前の俺に対する忠誠心。それからその面倒な能力を御する力だ。まあそんなのはこれからいくらでもつけて行けばいい。
あ?俺は面倒見ねえよ。勝手にしろってさっきから言ってんだろうが。
兎に角今言うのはそのくらいだ。
あ、そうだお前今日中に一稼ぎして来い。じゃねェと宿に入れねェからな。それから朝は10時過ぎるまで起こすなよ。万が一女がいる場合は俺が起きるまでだ。
メシは勝手にしろ。金は自分で稼げ。
俺には迷惑をかけるな。酒を貢げ。
それから。
「師匠ぉー」
「…あ?」
まずい。あまりに血を流しすぎたせいか随分と昔の夢を見ていたようだ。(これも一種の走馬灯ってやつか)
ぐったりと横たわるその人の横に、更にぐったりと横たわりながら声をかける。
「生きてますか」と気だるく聞けば、「てめェより先には死んでやらねえ」と物凄く憎たらしい返事が返って来た。
「チッ、」
「てめェ今舌打ちしただろ。覚えとけや明日の借金明細を」
「そういう師匠こそ覚えといて下さいね。今夜のお宿に私以外女性はいませんよ」
「死に損ないが」
「スケコマシの反面神父」
「てめえなんて女じゃねえ」
――ドカーン!!!
下らない言い合いの合間を埋めるように爆発が起こる。音がだんだん近付いている。もうここからそんなに距離もないだろう。
「…だから言ったのに。私に任せてくれればあんなAKUMAの20体や30体」
「俺に言わせりゃお前によって仕事を増やされたんだがな」
「だったら師匠らしくさっさとマリアでも発動して助けて下さいよ」
「こんなちんちくりんのためにアイツは使ってやれねーなァ。何せお前と違って極上の女だから」
「変態」
「幼児体型」
「性病持ち」
「ナメんなそんなヘマするかこの俺が」
「それ自慢になると思ってんですかドカァァァァン!!!!
……あーァ」
不毛だ。こんなこと言ってるうちに爆発は私の足元まで及び始めた。ここもそう長くは持たないだろう。そろそろ移動した方がよさそうだ。
「師匠、私行きますけど」
「そーかよ。俺はここにいるがな」
「もうここ危ないですよ見るからに」
「アホか。今出てったら一斉射撃食らうだろうが」
「ここにいたってどうせ変わりませんよ」
「知ってるか?勇敢とバカってなァ紙一重なんだぜ」
「ここで可哀想に縮こまるよりかはマシですぅ」
「てめェ断罪されてェのか」
「師匠こそ八つ裂きにされたいんですか…あ」
「あ?」
『見ツけタ見つケタ!』
『えくソシすトだァー!!』
「………」
「………」
どうやら足元まで迫っていたのは爆発だけではなかったらしい。耳障りな声とも呼べぬ声が、頭の上でりんごろりんごろと鳴り響く。
「あーあ。師匠がちんたらしてるから」
「お前がうるせェからだろ。責任転嫁すんな」
「責任逃れの鬼みたいな人に言われたかないですね」
「責任逃れじゃねえ。偉大な俺様に対する奉仕だ」
「遂に脳味噌まで犯されましたか性病に」
『何なにぃー!?』
『ここまで来て喧嘩!?喧嘩!?』
『バカなエクソシスト!結局はみんな死ぬのにね!』
「…何か言われてますよ」
「みてェだな」
「私師匠と心中なんて死んでも嫌ですからね」
「そりゃこっちの台詞だ」
『だーかーらァ』
『喧嘩はやめなさいっプププ!』
『いーじゃんいーじゃん、今のうちにまとめてヤっちゃおうぜ「「う る せ え 」」
――ジャキッ!!
ほとんど同時に二挺の銃が構えられる。一方は無駄に銀色の光を弾く重々しい装丁で、もう一方はただ只管闇の色を閉じ込めた黒。しかしそれはこの鼓動に共鳴するように銃身を紅く染め上げる。
「ヤっちまおうたァ穏やかじゃねえなァ」
「師匠がそれ言うと卑猥にしか聞こえませんね」
「お前からブチ抜くぞ」
「いいからマジメにやって下さい」
互いに見据える先は世界。背後に感じるのはそのうちの何よりも高い熱。
「いいか、俺との契約覚えてるよな?」
「そっちこそ。自分の言ったことは守って下さいよね」
「はっ、この数年で随分と可愛げ失くしやがって」
「お陰様で。どっかの赤毛と四六時中一緒にいたもんですから」
「フン」
掲げる右腕に宿るは断罪の銃弾。背中が伝える熱は生命の叫び。
振り返らない。だってそこにはあの“契約”が生きているから。
紅く赤く燃え上がる世界で、今日も派手にやるとしましょうや。
「死ぬなら俺の目の前で死ねよ、バカ弟子」
『生きるも死ぬも、殺すも生かすも』
『食うも寝るも吐くもヤるも』
『人を愛したって構やしねェ』
『ただし、』
「それら全てが、俺のこの目に見えていること」
視界に君がいること
小さな世界。真っ赤な貴方。
それが私を繋ぎとめる唯一の契約条件。
(そしていつか、貴方の最期の瞬間とやらが私の目に映る事象であるように)
世界とはその目に映る全て。
理とはその唇から紡がれる全て。
(0731/おめでとう!)
thanx:交錯マリア様