まんまるの黄色い月ばかりが下界を照らし出す肌寒い夜。月光さえも冴え冴えと白く曇りそうな寒気に月さえも雲の布団に隠れてしまった。
その間にお天道様の目を盗んだ雪んこたちが次から次へと舞い降りてきて、翌日雨戸を開けてみればそこは一面の雪景色だった。


「…ゆ、ゆきー!」


いつもは黒光りする屋根の上も、野良猫の溜り場となっていた漆喰の塀も、地面剥き出しの中庭も、見渡す限り真っ白である。感動に張り上げた声はその色に吸収され、ただ空から降り注がれる太陽ばかりが銀世界を一層美しく輝かせていた。


「ゆっきっだァァァ!!!」


女性特有の…否、子供もびっくりするような甲高い声が、ここ真選組の屯所に響き渡る。気の早い目覚ましに一体何だと隊士たちが自室から顔を覗かせる。
その視線の先には雪と戯れるこれでも紅一点の年若い隊士の姿があって。


「うるせェェェ!」


――スパァァン!!
鋭い音で障子がすっぱ抜かれると、今度はそこから地を揺るがすような怒声が響いた。朝も早いというのに既に隊服に身を包んでいる、副長の土方である。


「あっ、おはよーございますふくちょー!」

「おはよーじゃねェよこのじゃじゃ馬娘!こちとら貫徹なんだ、ちったァ静かにできねェのか!」

「だって雪が積もってたんですもん!」


馬の耳にも念仏、というよりは糠に釘というところか。本当の鬼のように目を三角に吊り上げて土方が怒鳴りつけようとも、こうしてへらりという笑顔でかわされてしまう。彼女にその意図があるかは甚だ疑問を禁じえないところではあるが、兎に角それが最近土方を悩ませている頭痛の原因でもあるわけで。


「…ったく、これだからガキは気楽でいいよな」


ぽつりと呟いた言葉にはやや暗いものが感じられる。
一つ零した溜息は朝の寒気に白く濁り、その先にいる少女の輪郭を少しだけぼやけさせた。


「…って待てコラどこ行く」

「え?雪掻きですが」


と、何故か目の前の少女はさっきまでは持っていなかった雪掻きのスコップやらバケツやらを持っていて。いつの間に取り出したのかは不明であるが、それがさも当然であるかのようにきょとんと首を傾げた。


「…雪掻きなんざ後だっていいだろうが。それより今日は、」

「いくないです」


と、そこで台詞をぶった切られて土方の動きが止まる。仮にも上司である自分に向かってこの慇懃無礼な物言いはどうしたものか。今更生まれた悩みではないが、彼の沸点はいつもの如く通常の人間の半分ほどの高さしかなかった。

――のだが。


「このまま雪が解けたら道が凍っちゃうかもなんですよ。帰ってくるのに、転んだりしたら大変でしょ?」

「!」


…その言葉に小さく目を見開く土方。誰が、とは口にせずとも痛いほど分かる。


「とゆーわけなんで、私早速いってき「いや待て」


そうしてくるりと元気よく振り返った少女をその逞しい手で掴んで止める。何ですかまだ用ですかと言わんばかりの不満気な視線を向ける部下に、土方はやや俯き気味にこう言った。


「…俺も行く」

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