『心の準備はいいかな』 ドルフィン号内部の一室で、長い話がはじまろうとしていた。 ソファーに座ったマオを12時の位置とし、時計回りに003、009、001を籠ごと抱いた005、そして004、006。それぞれが椅子を使ったり壁にもたれたりと楽な姿勢を取っている。 『マオ、君はもう、僕達が普通の人ではないことに気付いているね』 確信を持って問われ、マオは恐る恐ると頷く。 銃撃戦を繰り広げた鉄の右手を持つ男性。空を飛んだ青年。口を動かさず、テレパスで会話をする赤ん坊。 ――彼らは一体。 『僕達は、ゼロゼロナンバーサイボーグ。体のほとんどを機械化された人間だ。まずは何故僕達がサイボーグとなったのか、その経緯から説明しよう』 治療のために横たわっている時間というのは、あまり好きではなかった。 というより、メンバー内に「好きだ」という奴はいないだろう。居たらそいつは頭がイカレているのだ。そう決めてかかるほど、診療台というものにはトラウマがある。 002は壁を見つめて「ハァ」とため息をこぼした。 治療箇所がこめかみなので顔は横を向かされており、ちょっと窮屈だ。首を回したいがやったら怒られるのでやらない。 ただ口は回した。そろそろ退屈してきたので。 「博士、まだ終わんねーの?」 「うぅむ、もう少しじゃ。それより、001の話を聞いておれぃ」 001はその場にいない四人のために、音声をテレパシーで飛ばして会話を実況してくれていた。今はブラックゴーストがいかに非道な兵器開発・実験を繰り返していたかを説いているようだ。 テレパシーに意識を傾ける。 『そして立ちあがったのが、サイボーグ兵士計画。僕らはその試作品というわけだ』 『サイボーグ、兵士…』 マオのオウム返しの声が聞こえてくる。 もう聞き飽きたほどだった。 サイボーグ兵士。試作品ゼロゼロナンバー。番号が進むほど強力な改造を受けるだろうこと。試作品十体完成と同時に、大量生産に踏み切られてしまうこと。 ――切り札は九人目。 009のコードを与えられる者が現れたときが、反乱のときだと。 そして起こるべくして反乱は起きた。 『だから僕らは9人なんだ』 そこで止まればいいのに、今ここには6人しか居ないけどね、という余計なひと言が続いた。 へいへい、悪かったな。約一名ヘマして治療中でよ。 そして話はやっと、今回の基地襲撃の説明へと移行した。 数日前のことである。 ひょんなことからブラックゴーストの残党基地の存在が明るみになった。 「その話、確かなのか」 004が注意深く確認をする。話を信じられない訳ではないが、相手が相手だけに簡単には動けない。 「やっこさんたち、太平洋のど真ん中に人工の島を浮かべて活動しているらしい」 007がゆったりと頷いた。手に持った水をまるでワインのように回してあおる。 「聞くところに聞いたから確かな話だ。職業柄、顔が広いんでね」 そういう割に、彼の表情は明るくない。 人間らしく生活しているのに、ブラックゴーストの影はどこまでもついてまわる。自由はどこにあるのだろう。 更に話は本当だとしても、それが自分たちを誘い込むために故意に流された情報だという可能性も捨てきれなかった。 「例え罠だとしても、ブラックゴーストを放っておくことはできない。奴らは撲滅しなければならない。行こう……僕らの未来のために」 009は、また戦うのかと目を伏せた003の手を、励ますように握った。 そして見つけたのだ。マオを。 結果として、入手した情報は本物であり、これといった罠も敷かれていなかった。 あまり活発的に動いている基地ではないらしく、兵力もたいしたものではない。生き残った兵が脱走するための船だけを残し、破壊し尽くした。 皆はドルフィン号の窓から、黒煙をあげて沈んでゆく島をみた。 ← 戻る → |