「ここか…?」

地下はそれほど広くはなかった。
何度か角を曲がったあたりで最奥に到着し、コンクリートの冷えた部屋に足を踏み入れる。

部屋の中央にガラス張りのカプセルが3つ横たえられていた。
改造されたという三人はその中に眠っていた。

「…まだガキじゃねぇか」

手前のカプセルを覗きこむと、小柄な少女の姿が見て取れた。戦闘服ではなく、質素な白いワンピースを着せられている。その奥は二つとも男性だ。

「で、こいつら叩き起こしゃいーのか?」
『残念だけど』

001がさして残念でもなさそうに淡々と述べた。

『さっきから話しかけてるんだけど、奥の二人は反応がない。もう脳が死んでる』
「はっ?」

慌てて奥のカプセルを覗きこむ。顔色はいい。ただ眠っているだけのように見える。

『“倉庫”というのは間違いじゃなかったようだね。最低限の改造だけして放置していたんだ』
「まて…まてまて」

002は頭を押さえた。
理解ができない。

「…死んでるのか。奥の二人」
『そうだよ。あと数日早かったら、助けられたかも知れないね』
「女の子は」
『いま呼びかけてる』
「起きるのか」
『多分ね』
「“倉庫”って!?」

頭上でどかんと爆発音が響いた。004が派手に暴れているのかも知れない。部屋が揺れて天井から砂や埃が落ちてきた。

『つまりこの人達は、サイボーグとして本格的に改造する前の人間ストックさ。でもこうして放置されてるってことは、計画が凍結して要らなくなっちゃったんじゃないかな』

吐き気がした。
人間を兵器の材料としか見ていないブラックゴーストのやり口を改めて見せつけられた。これまで何人いたかも知れない、番号すら与えられずに廃棄された人達。

――許せねぇ。

握った拳がギシリと音を立てた。

「さっさと起こそうぜ。こんな馬鹿みてぇな研究所、ぶっ潰してやる」

いつもの002なら、少女を連れていくことを躊躇したかも知れない。少しでも改造されているのなら、敵として判断するべきだと思っていた。信じて裏切られるのは御免だった。

だがこのときはブラックゴーストに対する怒りがあまりに大きく、少女が敵だとか味方だとか、そんなことはどうでも良くなっていた。とにかく奴らのやること成すことが気に食わない。
生きているというのなら、誰に邪魔されようと連れ帰ってやる、そんな気持ちになっていた。

『そうだね。ブラックゴーストが要らないっていうんなら、有難くもらっちゃおうよ。ねぇ?彼女、可愛いし』

001が本気とも冗談ともつかないことを言う。
それから暫く、001と少女の水面下のやりとりが続いた。



『よし、応えた』

少女の瞼がわずかに動く。

「! 起きるのか?」
『うん。カプセルを開けて』

少女を覆っていたカプセルの蓋をこじ開ける。中の空気はわずかに冷えていた。

「――……」

思わず固唾を飲んで見守ってしまう。少女がうっすらを目を開いたとき、001がそういえば、と思い出したように言った。

『君、翻訳機が壊れてるんだろ?言葉通じないんじゃない?』

あ、と思ったときには、少女の黒い瞳がぼんやりと002を捉えていたのだった。

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