足のエンジンにこれといった不具合はみられなかった。002はホッと息をつく。

「どうだ調子は」
「足は問題ねぇ。ただ翻訳機がちょっとイカレた」

とん、と指先で自身のこめかみを叩く。飛んできたミサイルがそばの岩を砕き、破片がそこを直撃したのである。

細かく言えば、翻訳装置自体は無事だ。どこが壊れたかというと言語を出力する“喋る機能”で、入力、つまり“聞き取る機能”は正常に作動している。
今の002は、異なる言語の理解は出来るけども母国語しか話せない、という状態だった。

「まぁ、その程度で済んで良かったんじゃないか。お前さんが動かなくなったときは流石に、ヒヤッとした」

002は意外な思いで目の前の死神を見上げた。素っ気ないが、意味するところ「心配した」と言っているのである。

破片とはいえ拳ほどの石が頭を殴打し、数分ほど意識を飛ばしていた002は、起きたら壊れた戦車の影にいた。004が抱えて移動してくれたらしい。
そのまま寝転がっていれば確実に追撃されていたので、礼を言うと「重かった。あとで奢れ」と照れ隠しをするのである。たまには可愛いおっさんだった。


『良かった、二人とも無事なのね』

柔らかな声が通信機を伝わってきた。003だ。

『兵士たちは撤退を始めているわ。基地で待ち伏せするつもりみたい』
「へっ。やっぱたいしたことねーな。しょぼい迎撃だったぜ」

その迎撃で気絶していたのはお前だ、という言葉を、004は賢明にも飲み込んだ。
どうせ003も“見て”いたから知っている。

「009達はどうだ」
『順調よ。もうすぐ基地の裏側に到着するわ。二人もそろそろ準備を』

いいねぇ、と002は腕を頭の後ろで組んで口笛を吹いた。

「囮作戦大成功ってわけだ」

派手にやれ、と言われて、元々派手好きの彼は思う存分楽しんだようである。負傷したものの随分と機嫌がよかった。
対して004は少々複雑な心境だ。囮役が嫌だったわけではない。囮に適した“派手に戦うメンバー”として、002と並べられたのが気に食わないのだ。だが全身武器でミサイルをぶっ放すドイツ人は、誰がどう見ても最も派手な人材だった。

『009達が侵入に成功したわ!』

7から9のナンバーを与えられた三人は、002と004が暴れて敵の目を引きつけている間に、反対側から侵入し奇襲をかける作戦であった。概ね予定通りである。

「俺達も行くぞ」

004の言葉を合図に、二人は戦車の影から飛び出した。

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