触れたらおしまい 「恋慕」様企画提出作品 ザアザアと降る雨。傘を持たないでいてはあっという間に全身ずぶ濡れになってしまった 別に、誰に話し掛けてもらいたいわけでもない…ただ、真っ黒な空を眺めていたいだけ 「風邪、引きたいんですか?」 「、いや……」 ごく自然に現れた彼に少し驚いたがすぐにまた空へと視線を移す これ以上話すこともないから会話を切ったのだがメフィストは私の前に立つと厭きれたように見てきた 「…なんですか…」 「いや、貴方の感情が読み取れないものでね」 私の感情なんて知ってどうする気なんだ、この男は… そっと視線をメフィストに向けると相変わらず読めない表情をしている 雨は降ることを止めない。この光景を第三者が見たら不信に思うことだろう そんなことを思っていると紫の手袋をした手が視界を横切るそして濡れた髪を整えている 「何しているんですか」 「ん?…貴方も一応女性でしょう。いつまでこうしているつもりですか」 緩やかに髪を撫でていた手が私の頬を掴む。そしてそのまま横に伸ばしたのだ 「っ…にゃに…」 「よく伸びますねー!」 ニコニコと嬉しそうに頬を引っ張る制止させようとするが口から漏れた言葉が恥ずかしくて思わず黙っている間にも頬を引いて笑っている 「はー…笑わせて頂きました…さて」 「メフィスト…?」 丁寧な物腰で自然に手が差し出される。さっきまで私の髪を撫で頬を引っ張っていた手 「送って差し上げますよ」 「…あ…」 その手を取ろうとしてしまったが思いとどまる…理由はない。…ただ、他の存在がまだ怖いのかもしれなかった 「じれったいですね…帰ってしまいますよ?」 「っ…まっ、て…」 引いていってしまう手を反射的に掴む。…温かい… メフィストは私が掴んだことに満足そうに笑うとゆっくりと歩きだした もう一度空を見つめたら…日の光が差し込んでいた 触れたらおしまい (彼に恋してしまうから) END...menu |