奪われた薬指






臨也が用があると電話で言ってきたので言ってみたら書類を整理してと私に任せて自分は二階の部屋に行ってしまった
最初は愚痴を零していたが暫くして部屋から出てきた臨也に言葉を失ってしまった



「…なにそれ」


「ああ、これ?今日はちょっと偉い人と会うんだよねえ、だから正装しないと」


「へ、え…」



いつも黒いのだが今も真っ黒。だけど今回はスーツ、を着ていた…臨也は性格が酷くても見た目は良いから…スーツが似合いすぎている



「臨也、ネクタイまがってる」


「…俺ネクタイ嫌いなんだよねえ、名前結んでよ」


「仕方ないなあ…」



臨也のところまで行ってネクタイに手を掛ける…なんだか距離が近くて照れる…いや、別にどうだっていいのだが
早く終わらせたくて手早くネクタイを結ぶ。あと少しというところで臨也が変なことを言い出した



「なんか新婚みたいだね」


「は!?」


「はは、そんなに驚かなくてもいいじゃないか。ただ第三者から見たらそう見えるんじゃないって仮定の話しだよ」



「…下らないこと言わないで、はい。お終い」




赤くなった顔を隠すようにして臨也と距離を置く。馬鹿みたいだ、こんなことで顔が赤くなるだなんて…



「ん、ありがとう。…名前」



頬になま暖かい感触とリップ音。臨也が背を向けていた私を自分のほうへ向けさせて素早くそれを行動したんだ



「っ馬鹿!早く仕事いけ!」


「口悪いなあ、出送りの言葉とかないの?」


「私は臨也の嫁でも何でもないから」


「…じゃあ嫁だったらいいのかな」



無理矢理私の左腕を掴むと自分の右手に嵌めていた指輪を外して私の薬指にはめてしまったのだ。なにをされたのか一瞬では理解出来ずただ微笑んでいる臨也の顔をみる




「…!な、なにして」


「これでいいだろ?はい。出送りの言葉は。」


「っ…自分勝手!」


「何とでも」



こうなったら彼は絶対身を退かないのだろう。この場を早々に終わらせるためには私が降参するしかない



「…い、…て…」


「聞こえない」


「、…行ってらっしゃいっ…」


「…うん。行って来ます」



とても嬉しそうに笑い今度はおでこにキスをして行ってしまった
…なんだかとても疲労した気がする。でも、喜んでいる自分もいた…左手の薬指に嵌められたシルバーのリングをみて自然に頬が緩むのだから




「…今日は鍋にしてあげよう」





素直になれない私だけどいつかは本物の指輪が欲しい、なんて






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