04

部活を引退してから久しぶりに風丸君が思いっ切り走っているのを見た。それは体育祭の最後の種目、ベストリレー。風丸君はアンカーで三走の子からバトンを受け取り走り出す。今の順位は二位で、一位の子とは少し距離があった。けれど風丸君はぐんぐん距離を縮めてあっという間に逆転してしまった。風を切るように走る彼は誰よりも速く誰よりも輝いていた。

「…、すごい」

そのまま順位は変わらず風丸君は一位でゴールした。ゴールテープを切って足を止めた彼にチームの子が駆け寄って、真ん中で笑う彼はキラキラしていた。
みんなが嬉しそうで、風丸君も嬉しそうで、そんな彼を彼らを見て俺も嬉しいはずなのに、何故かもやもやして素直に喜べない。どうして見ていられなくて俯いてしまった。すると周りから、やったな!風丸すげえ!って声が聞こえる。どこからか女子が風丸君かっこいい、なんて声も聞こえてしまった。その言葉にどうにも泣きそうになる。風丸君は俺のじゃない。でも嫌だ。笑わないで。取らないで。ドロドロとした感情が胸から体中にまわって息苦しい。耐えられなくて俺はその場からそっと離れた。
その瞬間を風丸君が見ていたとは知らずに。

誰もいないような場所まで走って一息つく。校舎が施錠されていなかったのをいいことに教室棟に入り込んで自教室の自席に座る。いつもは騒がしいこの教室も今はシンとしていた。グラウンドから聞こえてくる音を遮断したくて目を瞑り両手で耳を押さえて頭を下げる。これで音が完全になくなるわけではないけれど、やらないよりはましだ。
さっきの光景を思い出してまた胸が痛くなる。みんなの中心に風丸君がいて風丸君は笑ってて、でもその笑顔は俺に向けられたものじゃなくて、彼は俺なんかを見てなくて。まるで彼との間に大きくて深い溝があるようだった。

「風、丸君…」

「呼んだか?」

「えっ…」

誰もいない空間に呟いて消えるはずだった言葉に返事がくると思わなくて。しかもそれが求めていた人で。

「風丸君…?」

「俺が円堂に見える?」

「…ど、して?グラウンドにいたんじゃ…」

「ヒロトが走ってくのみえたから。何かまた変なこと考えて悩んでるだろ」

風丸君の暖かい手が俺の頭を撫でる。俺を見下ろす彼は微笑んでいて泣きそうになった。視界が霞んで彼の顔がよく見えない。「ふぇ、かぜま、るくん…」

「はいはい。どうした?」

小さな子供をあやすような優しく甘い声。風丸君は撫でていた手を下に滑らせて頬にこぼれ落ちた涙をすくってくれた。

「風丸君は俺のじゃないのに、わかってるのに、それでも風丸君がみんなに囲まれて笑ってるのを見るのがつらいんだ」

風丸君の笑顔も何もかも俺だけのものにしたいよ。
こんな重すぎる気持ちを言ったって彼を困らせるだけで。それに気持ち悪いと思われるかもしれない。それでも、言葉は涙と共に溢れ出て止まらなかった。

「風丸君、俺を一人にしないで。そばにいてよお」

すがりつくように頬にあった風丸君の手を握る。霞んだ視線で彼を見上げてもどんな表情をしているかわからなかった。
すると握った手をするりと離されてぎゅっと抱きしめられた。

「お前、バカ」

「っ、」

「俺はさ、前からヒロトは俺のものって思ってるんだけど」

「…え?」

「ヒロトが今思ってること全部俺も思ってた。俺以外に笑顔向けるなとかヒロトは俺のそばにいればいいとか」

「う、うそ…」

「嘘じゃない」

風丸君のぎゅっと抱きしめる力が強まった。こんな近くで彼を感じるのは初めてだ。無意識に彼の背中に腕をまわす。

「風丸君…」

「うん」

「好きっ、風丸君が…好き」

「俺もヒロトが好きだ」

「俺、だけの風丸君になってくれる?」

「もちろん。お前も俺だけのヒロトになって」

「うん、…うん!」

それからしばらく抱き合って、誰もいない校舎で夕陽が溢れる中、小さなキスをした。この時を俺は一緒わすれない。




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書いてる内に迷子になりました。初めは付き合ってるつもりだったのに何時の間にかカップル誕生話に…。小ネタからバーンてきた。


20110917




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