01 全体練習が終わって今日も居残り練習をすることにした。そして少し勇気を出してヒロトさんにお願いしてみようと思う。宿舎に戻ろうとするその背中に声をかけた。 「ヒロトさん!」 「わ、どうしたんだい?立向居君」 俺の声に振り返るヒロトさん。いきなり呼ばれたからか少しだけ驚いたような顔をしている。翡翠色の瞳にじっと見られて何故か鼓動がはやくなるのがわかった。手にぎゅっと力を込める。 「あの、マジンザハンドの練習に付き合っもらえませんか?もっと技の精度を上げたくて…お、お願いします!」 頭を下げていっぱいいっぱいお願いする。すると肩にわずかな重みとヒロトさんの声。 「勿論だよ。じゃあやろうか」 「はいっ!」 ボールを持ってヒロトさんの隣を歩く。俺でいいの?とヒロトさんは聞いてきた。咄嗟に、俺はヒロトさんがいいんです!なんて言いそうになる。どうしてそんな言葉が浮かんだのだろう。 練習して、技の精度を上げてもっとみんなの役に立ちたいって気持ちは勿論ある。でも今日の居残り練習は何故かその中にヒロトさんと一緒に練習したいという気持ちがあった。豪炎寺さんでも虎丸君でもなくヒロトさんがよかったのだ。よくわからないが深く考えないことにして頭の隅に追いやった。 ポジションに立ってかまえる。ヒロトさんのボールをキャッチできるだろうか、不安と緊張でいっぱいだ。 「じゃあいくよ」 「はい!お願いします」 ヒロトさんのしなやかな足から蹴り出される強力なボールがゴール目掛けて向かってくる。じっと見つめて流れを感じ取る。 「っ!」 ぎりぎりでボールを掴むことができた。けれど勢いをつけすぎて転がってしまった。パッとヒロトさんを見れば笑っていたけど少し悔しそうな表情をしていた。 「取られちゃったな…でも次は入れるからね!」 「次も取ってみせます!」 1、2時間は経っただろうか。お互い疲れて肩で息をしていた。それでもヒロトさんから蹴り出されるボールの勢いは全然変わっていなくてやっぱりヒロトさんはすごいと改めて思う。 「さすがに練習の後にずっと蹴り続けるのは疲れるね」 「でも、全然威力は変わってなくて…ヒロトさんすごいです!」 「はは、ありがとう」 呼吸は落ち着いたけどまだ暑いのか、いつもは白い肌がうっすら赤くなって服の裾で汗を拭うヒロトさんは何というか、艶やかでつい見とれてしまう。 だから、気づかなかった。 「っ!、うわあ!!」 いつの間にかボールが眼前にあってそのまま直撃、ドサッと尻餅をついた。鼻に思いっきり当たってすごく痛い。 「いたた…ひ、ヒロトさん?」 「あはは、大丈夫?」 近付いてきて、俺の正面でしゃがんで笑いながら当たった部分を撫でてくれた。ボールを蹴った人はヒロトさんしかいない。いきなりどうして。 「変な顔して見てくるからつい」 「へ?」 変な顔とはどういうことだろう。自分ではそんな顔をしたつもりはない。 「無自覚なのかな。俺いつか立向居君に食べれそうだよ」 「は?え?食べるって…」 「分からないならそのままでもいいと思うよ。たださっきの表情はちょっと怖かったな」 にこっと笑いながらヒロトさんは言葉を続けた、けれど全然意味が分からなかった。それから先に戻ると言ってヒロトさんは行ってしまった。 どういうことなのだろう、ヒロトさんの言うことがひとつも理解できない。けれど、去り際のヒロトさんの笑顔が頭の中でリピートされて顔が、全身が熱くなっていくのだけは分かった。 この気持ちに気付くのはきっともうすぐ。 美しい横顔 −−−−−− 自分の気持ちに気付かない立向居と立向居の気持ちに気付いてるヒロト。立ヒロはちょっとヒロトが小悪魔的な。そして立向居が変態化した。何故。 20110915 ← |