小説 | ナノ


最近喜多が変だ。ここ一週間くらい。まず携帯を見る回数が増えた。暇があれば携帯を開いている気がする。前までも別に見てなかったわけじゃない、しかし今と比べると少なかったように思う。そして誰かが画面を覗き込もうとすると慌てて閉じる。
もうひとつ、西野空に怒らなくなった。いや、怒る回数が減った。時々練習中に休憩と称してサボろうとする西野空に注意するところまではいつも通り。しかし西野空が喜多に何か言うと顔を赤くしてしまってそれを西野空がからかう始末。
一体どういうことだ。まわりのやつらは喜多に彼女が出来てそれを取り持ったのが西野空で、携帯をよく見てるのは彼女とメールでもしてるんじゃないか、だと。
それはないと思う。喜多はそれが原因で言えなくなるようなやつじゃないし西野空もそれをだしに使うような…やつか。
それに、喜多と付き合ってるの一応俺だし。

それでもやっぱり気になるわけで下校中にでも秘密を暴こうと思う。もしまわりの噂が本当だとしたら−−喜多に限ってないと信じるが−−一発殴って別れるとしよう。

「喜多、帰ろうぜ」

「隼総か、珍しいな」

隼総から帰ろうって誘われるなんて、と続ける喜多。確かに俺から誘うなんてめったにない。別に恥ずかしいということではなく、いつも俺が言う前に喜多が言ってくれるからだ。…喜多に甘えてるというわけでもない。
他の部員にじゃあなと言って校門をくぐる。五分程度歩いたところで、よし。

「なあ喜多」

「ん?なんだ」

「最近お前、おかしくね?」

携帯触る回数やたらと増えたり西野空にからかわれたり、そう言えば思う節があるのか引きつった顔であー、と返した。

「みんなが喜多に彼女ができたとか言ってけど、違うよな?」

「ち、違う!有り得ない!!」

俺が問えば喜多は慌てたように答える。その慌てぶりにちょっと安心した。

「じゃあさ、ん」

「…なんだ?その手」

「携帯貸して。やましいこと、ないんだろ?」

俺にしては珍しくにっこりと効果音がつくくらいの笑顔で言ってやる。と喜多はまた慌てたようにダメだと言う。そんなことは今までの態度から予想できる反応なので無理やり奪うことにする。喜多は鞄のミニポケットに携帯を入れるのは知っている、ので持ち前のスピードで喜多に近付いてポケットに手を押し込んだ。

「は、隼総!!」

「げっとー。悪いな、開けるぜ」パカッと折りたたみ式のそれを開く。と、衝撃。

「…俺?」

「あああああ!!!!」

正確には寝ている俺。机にへばりついてるのが分かるから学校っぽい。そういえば一週間くらい前に普段居眠りしない隼総が寝てたー、って西野空に起こされたっけ。

「これ…」

「ち、違うんだ隼総!西野空がくれて、隼総の寝顔なんてめったに見られないから!か可愛いなって思って、その…」

顔を真っ赤にさせながら言わなくてもいいことまで言ってくれる喜多。つまりずっと見てたのはこれでそれを知ってる西野空にからかわれてたのか。
冷静に考えてるつもりだけど顔が熱い。耳も熱い。

「…喜多の馬鹿」

「ごめん…」

「そ、そんな隠し撮りじゃなくて、堂々と撮ればいい、だろ!」

「隼総…!ああ!」

何言ってんだろ自分。とりあえず西野空明日ぶん殴る。


白旗です


−−−−−−
青春、というか喜多くんがただの変態
隼総くんが迷子


title by 自慰


20110809