小説 | ナノ


「隼総、手だして」

珍しく部活が休みのこの日、星降から一緒に課題−−シードだと言ってもまだ中学生。俺も普通に課題を出された−−やろうと誘われた。どっちの家でやるかと言われれば当然星降の家で、とりあえず英語と数学の課題を持って行く。
最初の一時間はお互い黙々と取り組んでいたが集中力が保たず、星降は携帯、俺は星降の家にあったサッカー雑誌を読んでいた。
そこへ星降から冒頭の言葉。何言ってんだ、と訝しげな顔をしていると早く、なんて言われたのでとりあえず片手を星降に出す。
片手で俺の手を支えてもう一方の手で小指の付け根に触れる星降。

「何してんだ?」

「…赤い糸…」

「…は?」

「隼総の赤い糸の相手だれかな、って」

なにそれお前見るだけで分かんの?そう聞けば相変わらず俺の小指を触りながらわからない、と答えられる。

「でも、俺だったらいいな」

「え…」

ポツリと星降のこぼした言葉に一気に顔が熱くなるのがわかった。星降は気にしていないのか真顔で俺の小指を見つめている。恥ずかしくなってそっと視線を星降から外した。
こいつがこんな奴−−脈絡のないこと突然言ったり、恥ずかしいような台詞も真顔で言ったり−−−だってのはずっと前から知ってる。そう知ってる、のにこいつのひとつひとつに反応してしまう自分。

「(…女かよ)」

星降の行動ひとつで一喜一憂する自分。まるで女の子みたいだ。外見は星降の方が女の子みたいなのに。

「あ、」

急に母音を出したと思えば続けてこっち向いて、と星降は言った。顔の熱さももう感じないし言われた通りに向ければ笑顔の星降。

「隼総、わかった」

「…何が?」

「もし隼総の赤い糸が他の人と繋がってても、それをほどいて俺と繋げればいいんだ」

赤い糸の伝説は本当かもわからないし、まず見えなければ意味ないんじゃ、言葉を返そうと動かす唇はやんわりと防がれた。

「…ん、」

ほんの数秒間。離れた星降は笑っていて、その唇は俺の紫が少しついていた。

「隼総、理屈っぽい言葉いらない」



赤い糸のほどきかた





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星降は電波

title by hmr


20110809