小説 | ナノ
何も変哲もないコンクリートの上を歩く。今日は暑い。太陽がこれでもかというくらい輝いてその熱が地面に反射する。上下からきて全身にこもる熱を放出しようとするが意味がない。汗だけかいてべたべた気持ち悪いだけだ。ここ2、3日は涼しかったから油断していた。いや今日の朝までは涼しかったのだ、肌寒いくらいに。母親だってもうそこまで暑くならないと言っていたのに、どうしてか負けた気分になる。
そこまで長くもない道のりなのにこの暑さでははてしない距離に思えて仕方ない。ようやくたどり着いて宅のインターホンを押す。
「いらっしゃい」
「霧野…」
「入れよ、汗かいてる」
お邪魔します、と俺の言葉は霧野家の廊下に響いた。家族全員どこかに出かけているらしい。人気の感じないその廊下はひやりとしていた。
霧野家のリビングは冷房のおかげかひんやりと涼しかった。太陽光とは断絶され冷気のみと言ってもいいその部屋は熱のこもった全身から熱を追い出してくれた。
「今日こんなに暑くなるなんて思わなくてさ、神童来るから急いでいれたんだ」
「…涼しい」
「そっか」
霧野が注いでくれた麦茶を飲んで一息。そこで自分が持ってきたものに気付いた。でも熱に弱いそれは来るまでにきっと溶けてしまっているだろう。鞄から恐る恐る取り出して袋ごしに触ってみれば、ぐにゅり。
「何だ?それ」
「チョコレート」
霧野にあげようと思ったけど溶けてる。そう続けながらも手は相変わらず溶けたチョコレートを握る。濁った金の包みが手の中で形を変えていく。
「あ、」
握りすぎたせいかチョコレートが包みから飛び出して中身が出てきてしまった。仕方なく開くと原型をとどめていないチョコレートが包みの上に広がっていた。溶けきっていない塊の部分を親指と人差し指でつまんで口に含む。熱で生温かいそれが口内に広がり、甘くて温かくて変な感じがした。
「神童、俺も味見させて」
汚れていない方の手で包まれたチョコレートを渡せば霧野はにやりと笑ってそれを受け取らず俺の汚れた方の手首を掴んだ。
ぬめりと掌、親指、人差し指の順に温かい感触に咄嗟に手をひこうとすると掴まれた手首への力が増した。第一関節までを口に含んで舌で舐めると何を思ったかそのままチョコレートのついていない付け根の部分まで舐められた。
気がすんだかパッと手首を離されてにやり顔。
「あ、このチョコおいしいな」
「なに、して…」
「だから味見」
逆流した血液が顔に集中して冷えたはずなのにまた熱を持つ。この熱はなかなか収まる気はしなかった。
蝉の声は聞こえない
−−−−−−
単純に言うと
太陽で熱される→部屋で冷やされる→霧野に熱される
しんどーくん風邪ひかないでね
20110822
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