「俺、…私は彼にはなれない」

みんなが私をそれぞれの目でみる。驚いた目何かを悟った目疑った目…。やはり言うべきではなかった。でももう耐えられないのだ。自分がなれもしない彼になることを。自分を偽ることを。自分は十分頑張った。だからもういいじゃないか。我に返った彼らの中の1人が私に尋ねる。

「…どういうことだ、く」
「私は彼じゃない」

言わせないように台詞を遮った。聞きたくない聞きたくない。未だに私を彼だと思っている人達には悪いことをしたと思う。でも、でも…。そうして私は私を正当化するのだ。

「ずっと、ずっと苦しかった。みんなが彼との共通点を見つける度に嬉しそうに笑って、違うとこを見る度に悲しそうにするの」

私が言い終わるころにはみんなは下を向いてしまっていた。悪いのは私。彼のポジションを、場所を奪ってしまった私のせい。彼がいればみんなにこんな気持ちにもならなかったのに。神様は意地悪だ。

「この顔も体も彼のもののはずなのに心だけが私。せめて彼になろうとしたけどやっぱり無理で…。」

「私は久々知兵助にはなれない」

その言葉を口にして私は逃げた。みんなは下を向いたままで誰も私を見ようとはしなかった。




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