番外編
迷子になる前
 じりじりと照りつくような日差し。肌を刺されるような感覚に俺は帽子を目深に被りなおした。先行する法月は意気揚々と通学路を歩んでいて暑苦しい。

「ご機嫌だな。何かいいことでもあったのか」

 先程から鼻歌を口ずさんでいる彼に問いかけると、一変してどんよりとした表情を向けられる。

「いんや、また振られた……」

 なるほど、空元気だったわけだ。どうやらまた凝りもせず北川に告白してコテンパンにやられたようである。親友としてはもう少し優しく振ってやってほしい気もするが北川であればその対応も期待できないだろう。

『その気もないのに曖昧なこと言う方が酷ってもんでしょ』と言う彼女の姿が目に浮かぶ。
 そもそも、どうして彼女なのだ。法月ならもっといい子もいるだろうに。常々不思議に思うが、こればっかりはどうしようもないことなのだろう。彼曰く恋は落ちるもの、ならしいから。あんまり無粋なことを言うのは止そうと自重するも、どうやら親友は俺の考えなどとうに見透かしていたようである。

 にししと笑って

「仕方ない、恋は落ちるものだから」

 といつものセリフを俺に投げた。この頻用される言葉は彼のお気に入りなのだろう。もう飽きるほど聞いた。

「それに、俺思うんだよね〜」
「ん?」
「多分俺が迷子になった時助けてくれるのは彼女だって」

 そりゃまた。

「くっさい話だな」
「いいだろ、別に!」

 汗がコンクリートに落ち染みを作る。腕時計は始業三分前を指していた。

「わ、やべ」
「これは遅刻だわー…」

 夏の光の中を親友と共にわちゃわちゃと走る。きっとあいつはまた彼女に告白するのだろう。今日は何と言って慰めようか。

 これは、親友が迷子になる前の物語。



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