BL短編
卵からうまれる
「なぁ、さっさとリコールしろよ」
「んー…、あとちょっと」

 会長である槙田時雨〈マキターシグレ〉は生返事を返す。いつものやり取りに、風紀委員長の相模汀〈サガミーナギサ〉はしかめっ面をした。

 会長以外の生徒会メンバーが転校生にかまけて仕事を放棄、その仕事を風紀と会長で処理している現状、リコールが最も有効な手段である。

 が、毎回提案しては振られている。

「気持ちは分からなくもないが…。学校が回ってる今ならまだ痛手は少ない。完全に回らなくなってからリコールとなると生徒会だけでは問題は済まなくなる」


 …風紀と並んで学校の要を支える生徒会の機能が完全に停止する。それはつまり、

「最悪、学校自体が立ちいかなくなる」


 学校の機能が停止する、ということだ。

「ん…。だから、あとちょっとだけだ」

 それでも、半年の間共に仕事をしてきた仲間だ。諦めたくはなかった。いや、

「俺はきっと、奴らから切り捨てられたことを認めたくないだけなんだろうな」

 素直に胸の内を吐露した槙田に、相模は心を痛めた。あの横暴の代名詞とも言えるライバルがこんなにも弱っている。

 相模はお互いに張り合っていた頃のことを思い出す。その頃はまだ転校生なんていなくて、学校も平和で、互いに悪態をつきながら張り合いのある生活を送ってたよなぁ、と。

(……でも、槙田が弱ってると少し可愛げがあってそれはそれで…)

 邪な考えが頭を過ぎり、いかんと頭を振って邪念を追い出す。

 誤魔化すかのように、少し今更な話題を持ち出した。

「そういや、会長さまは転校生に惚れなかったんだな」
「だって初対面じゃないか」
「まぁ、確かに」

 本来、恋というのはそういうものである筈なのだ。同性間での恋愛なら尚更。

「副は会長のキスイベが云々とか言ってたが」
「きすいべ?」
「転校生と出会って初っ端に会長がべろちゅーかますらしいぜ」
「べ!?」

 槙田は相模の言葉に目を見開くと、顔を赤らめた。そして、伏し目がちに相模を見つめると、

「学生の身分では責任が取れないだろう」

 と尤もらしいような、どこかずれているような返事を返した。

(…責任? 責任なんて)

「大袈裟じゃないか?」

 相模が思ったことをそのままに言うと、槙田は信じられないという顔をして相模を見る。相模はその勢いに半ば引き気味になった。

「大袈裟!? じゃあ万が一子供が出来たらどうするんだよ!? 責任とれんのか!?」
「…は?」

 なんだろう。すごく変な言葉を聞いてしまった気がする。相模はにわかに信じ難く、硬く目をつぶって言葉を理解することを放棄した。

「確かに奇跡的な確率で子供は出来るものだが俺たちもこうして生を受けている以上、ゼロとは言い切れないだろう?」

 槙田は俺様的な野性味溢れる顔で真面目そうにそう言ってから、

「とにかく、初対面だし、責任取れないし、きすいべ?は無理だ。いつかはやるものなのかもしれないがラップは必須だろ」

 と総括した。相模は、また変なことを聞いてしまった、と思いながら頭を抱えた。槙田の衝撃発言の連続で、頭痛がしてきた。

「なんで、ラップ?」

 聞きたくない。でも聞かなければいけない気がする。そんな変な義務感に押され、相模はそこに切り込んだ。
 槙田はそんな相模の心中を全く慮らず、キョトンとした顔で「避妊は大切だろ」と言い放つ。相模の頭痛の痛みが増した。

「質問、いいか」
「なんだ」

 ここにきて、相模はようやくずっと気になっていたことを聞くことにした。

「お前、保体の授業出てたのか」
「いや、家で特別講習やるからって言われて保体の日は家にいた」

(特別講習とやらが非常に気になる!!)

「本当にちゃんと勉強したのか?」
「失礼な奴だな。父さんが自費で作った教科書でちゃんと勉強したぞ」

 なんだったら今部屋にあるから取ってくる、と言って立ち上がった槙田の背中を、相模は何も言わずに、否言えずに見送った。

 いや、一人にしちゃダメじゃんと思いだしたのは、茫然としていた自分に気が付いた後のことである。

(えぇぇぇぇ…。槙田さんめっちゃ純情じゃないですかぁぁ…)

 あのいかにも遊び慣れてます的な風貌で純情とか。

 相模はこみ上げてくる笑いをかみ殺し、槙田を追った。




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