混戦アンダーハート
3
「籠井さまぁ。あなたの米須宴ですよ〜♪」

 浮かれた言葉とは裏腹に、ドアから覗かせた宴の表情は真顔のままだ。

「宴……、やめろよ揶揄うな。言いたいことがあるならはっきり言えよ」

 顔を顰めて苦言を呈すと、宴は呆れたように目を細めた。

「じゃあはっきり言うよ、壱征(イッセイ)。お前、このままじゃ倒れるよ」
「……分かってる、けど」

 言いよどむとため息が返ってくる。うっ、俺だってもうちょっと仕事をしてほしいな、とは思ってる。思ってる、けど。

「だって、悪態ついちゃうし」
「ついちゃうからなんだって言うの」

 宴は、手に取った書類で俺の頭をぺしんと叩く。むっとしてみせると、宴は何が不満だとでも言いたげな顔をし、フンと鼻を鳴らした。

「お前は、生徒会長に選ばれた男だろ」

 唐突な言葉にきょとんとする。宴は、積み上げられた書類を副会長の席に広げながらカツカツとペンの頭で机を叩いた。

「お前は、アガり症で口汚い男だけど、その実績は認められてる。口汚くても会長に選ばれたお前なら、その悪癖を直さずとも味方を得ることができる。だろ?」

 何食わぬ顔で提示された目標に、ひくりと顔が引きつる。

「宴ぇ……」
「頑張ってくださいね、籠井さま♪」

 親衛隊長の仮面を被りにこりと笑う宴。圧に負けこくりと頷いた俺は、宴を呼んだそもそもの訳を思い出す。そうだ、俺は別に説教をされるために宴を呼んだ訳じゃない。コホンと咳ばらいをして心持ち場の空気を仕切り直すと、本題に入る。実は、と切り出す俺に宴は神妙に頷いた。

「今度の新歓、鬼ごっこをやることになった」
「……、はい」

 親衛隊長モードでなければ説教が返ってきただろうな、と思いつつ話を進める。

「今の学園は、転校生の影響もあって大荒れだ。宴には、会長親衛隊の厳正な管理と、他親衛隊への注意を任せたい」
「注意……、具体的には何を?」
「暴走しそうな親衛隊を見かけたら風紀に連絡してくれ。協力体制を親衛隊に依頼したと後で風紀には伝えておく」
「畏まりました」

 ぺこりと頭を軽く下げた宴に一つ頷く。話が一段落したことを確認した宴は、「では、」と口を開いた。

「そこに直ってください」
「……はい」
「もう、よろしいですね?」
「……はい」

 瞬間、一切の笑みを顔から消し去り、宴は俺を見返す。お説教タイム、再開だ。

「壱征、鬼ごっこって、何?」

 一言一言区切るような話し方に、びくりと正座する。「鬼ごっことは、」と悪あがきをすると壱征、と強く名前を呼ばれる。

「何で、そんな面倒な出し物選んだのかな?」

 理由によっては殴るとでも言いたげな宴に、視線が泳ぐ。

「……一人で出し物考えてたんだけど。夜遅くになんでこんなことしなくちゃいけないんだとかだんだん腹立ってきて」
「ほう」
「あのサボり魔たちがゼイゼイ息切らしてへたり込むとことか見たら胸がすくのに、って考えてたんだけど」
「うん」
「つい書いちゃってたらしい」

 却下されるかと思ったんだけどなぁ。
 ぼやく俺を、宴は無言でじっと見つめる。ふむ、と独り言ちた宴は、指先を矛のように揃えるとびしりと俺に先を向けた。

「無罪」

 よっしゃ。なんとか説教は回避できたらしい。



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